読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

赤朽葉家の伝説 桜庭一樹著 東京創元社 2006年

 第60回推理作家協会賞受賞作品。

 鳥取県西部、紅緑村。1953年、10歳の万葉は一ツ目の男が空を飛ぶ幻を見た。
 万葉は山の民・サンカの子供で、ある日里に置き去りにされていたのを若夫婦に育てられた。村は終戦以来好景気。山には溶鉱炉がそびえ、海には造船所が並ぶ。色黒でがっしりとした、村の人間とは明らかに違う容姿を持った万葉は、何故か溶鉱炉の持ち主・赤朽葉製鉄の大奥様、赤朽葉タツに見込まれて赤朽葉家に嫁ぐことになる。
 職人が消え、職工が幅を利かせる時代。万葉は赤朽葉の屋敷で、自分の仕事に自信と誇りを持つ職工・穂積豊寿と出会う。豊寿は万葉がかつて幻視して好もしく思った「一ツ目の空飛ぶ男」その人だった。未来を見る力を持った万葉。義父・赤朽葉康幸の死と石油ショックを予見し、夫・曜司の死に様を視、息子・泪の短い一生をも視てしまう。「赤朽葉家の千里眼奥様」として赤朽葉家の高度成長期を支えて行く万葉。泪の他に毛毬、鞄、孤独の四人の子供を産み、曜司と妾・真砂の間の子・百夜を育てる。
 全てがオートメーション化され、職工が廃れて行く時代。大人しく優等生の泪に比べ、毛毬はすっかり不良に育った。少女暴走族のリーダーとして中国地方を制覇する毛毬。高校を卒業し族を引退してからは、その経験を描いた漫画『あいあん天使』で少女漫画家として一世を風靡する。泪の大学生の若さでの夭折後、赤朽葉家の長女として婿を取り、その印税を赤朽葉製鉄につぎ込む。12年の連載が終わったその日、毛毬は一人娘・瞳子の目の前で過労死した。毛毬の心の多くを占めていたのは中学時代の同級生、可愛らしい顔立ちながら当時普及し始めた留守番電話を使って売春を斡旋し、少年院で死んだ穂積蝶子だった。
 製鉄をやめ、堅実に製造業に転換し、規模を縮小して行く時代。瞳子は赤朽葉家で祖母と共に平凡に暮らしていく。激動の人生を送った祖母や母の話を子守唄代わりに、「やりたいことがみつからない」人生を送っている。瞳子が二十歳の時、とうとう祖母・万葉は倒れ、瞳子に「自分は人を一人殺した」と言い残して死んでいく。
 瞳子は祖母や叔母たちから聞いた話を元に、万葉や毛毬の生涯を文章にして行く。かつては万葉をいじめ、長じて親友になった黒菱みどり、シベリア連行に精神が耐えられなかったその兄、狂気に捕われて死んだ真砂、毛毬の影武者を務めたアイラ、毛毬の恋愛相手をことごとく寝取った百夜…。万葉は一体誰を殺したのか。…

 どこが推理小説なんだろうと思いつつ読み続け、万葉の今際の言葉で「あっ!」。…でもこの「誰を殺したのか」、分かっちゃうんですけどね(笑)。
 面白かった。圧倒されつつ読み終わりました。深刻なのにどことなくユーモラス。戦後、まだ神話が生きていた時代から現代へ。この「サンカ」と言う一族をモチーフに入れた作品って結構多いんですね、アニメ「天保異聞 妖奇士」にも出てきたし、米村さんの作品やら何やら、『十二国記』の朱氏のモデルももしかしたらこれかもしれない。
 何かでも、私も過ごして来た時代の筈なのに、ものすごく他人事で読んでしまいました。毛毬や鞄の青春時代は、もろ私もかぶっている筈なのに、人が語るとあんな感じになるんだなぁ。…て言うか、桜庭さんが語ると、だな(笑)。それにしても、いくら雰囲気作りとは言え、電報を飛ばすのはやりすぎだと思うんですが。電話は勿論、ファックスももうあったって(笑)。
 子供でもなく大人にもなりきれない、と言う言葉に思わず首をすくめました。結局、瞳子に一番寄り添って読んだ気がする。いや、他の人物個性強すぎだし!(笑)。
 今の時代なら、みどりの兄も以前よりは受け入れられてるでしょうね。それだけでも、いい時代になってる、と思いたいのですが。