読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

卵の緒 瀬尾まいこ著 マガジンハウス 2002年

 瀬尾まいこさんデビュー作。第7回坊ちゃん文学賞大賞受賞作品。中編二本収録。
 ネタばれになってますね、すみません;

『卵の緒』
 「僕」は鈴江育生、小学四年生。母さんと二人暮らし。僕は捨て子だと思う、うちにはへその緒がないから。母さんに訊いたら卵の殻を持ってきて、「母さん、郁生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」なんてけろりと言う。
 五年生になって、母さんは職場の「朝ちゃん」の話題をよくするようになった。ハンバーグがとても美味しくできた夏の日、母さんは家に朝ちゃんを呼んで、ハンバーグをご馳走する。母さんのにんじんブレッドがすごくおいしく焼き上がった朝、僕は登校拒否しているクラスメイト・池山君にそれを食べさせてあげたいと思う。
 六年生の四月、僕の苗字が変わった。クラスのみんなの反応が少し不安だったが、池山君がうまくフォローしてくれる。しばらくして母さんのおなかが少し大きくなったとき、母さんは僕と僕の父さんとの馴れ初めを話し始める。
「結論は母さんと育生は血が繋がっていないということ。そして、母さんは誰よりあなたを好きだってこと」
 中学生の僕は今、親子の絆はへその緒でも卵の殻でもないことを知っている。

『7’s blood』
 私・里村七子には、母親の違う弟・七生がいる。 父と愛人の間の子だ。七生の母親が傷害事件を起こして刑務所に入ったため、我が家で預かることになった。母さんの太っ腹さにも驚いたが、七生の11歳とは思えない出来の良さにも驚いた。おもねるようなその態度が七子には気に入らない。なのに母さんはいきなり倒れそのまま入院、七子と七生は二人で暮らして行かなくてはならなくなる。付き合っているクラスメイト・野沢にちょっと愚痴ってみたりもするが、七子の誕生日を素直に祝えなかった七生を見て、七子は初めて七生を愛しいと思う。
 七生が女の子とキスしているのを見てこんがらがったり、野沢とのデートより七生を優先したり。そんな日々の後、母さんが死ぬ。あまり悲しみは襲ってこない。でも一ヶ月の間、眠ることもできない。七生は夜中、七子を連れ出す。目的も決めず三駅分も歩いた後、七子はようやく泣き始める。母さんの残してくれたものに気付いて。
 真冬、風邪を引いて三日間寝込んだ後、七生が出て行くと言い出す。母親が出所したので、一緒に暮らすのだとか。お互い「いつでも会える」といいながら、きっと私たちは二度と会わないだろう。…

 なるほど。これが一番よかった。
 瀬尾さんの作品読むのは『図書館の神様』、『幸福な食卓』に継いで三作目ですが、これが一番好き。
 対照的な二作ですね、血の繋がりと愛情との関連を否定する作品と、肯定する作品と。でもどちらもいい。
 瀬尾作品恒例(笑)、あれ?と思う所はやっぱりあるんですよ。五年生にしては育生が幼いなとか。でも今までの中では一番不自然さがない。特に、お母さん本当に魅力的! これは『7’s blood』のお母さんもですね。
 野沢か島津君か、七子はどちらを選ぶのか書いて欲しかったなぁ。野沢では後半の七子には物足りない気がしないでもない。
 瀬尾さんて基本的に勉強が好きなんですね。あっと言う間に七子はいい成績残すし、そう言えば『図書館の神様』の主人公も一発で教員試験受かってたし。島津君に太宰治読ませてたりするのは、少しあざといかな(笑)。
 …しかしなぁ。この装丁はどうだろう??