読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

灰色の北壁 真保裕一著 講談社 2005年

 雪山登山に関わる短編三本。ネタばれあります、すみません;

 「黒部の羆」とあだ名される山岳警備隊のOBが、遭難した学生登山者を救出しに向かう。遭難者と自分の苦い記憶がオーバーラップする『黒部の羆』。ヒマラヤ遠征に選ばれた友人・瀬戸口を素直に喜べない矢上。それは矢上が犯した登山での失敗によって、瀬戸口が得た名誉だった。だが、その失敗は瀬戸口に陥れられたものだったと知り、矢上は傷ついた瀬戸口を置き去りにして自分だけ助かろうとする。そこへ警備隊の樋沼が現れ、二人を救出する。…
 淡々と語られる文章に、いきなり「わたし」の文字。「えっ、これ一人称の小説だったの?」って、この段階で何となくネタが察せられるんですが、でももう一捻りありましたね(笑)。やっぱり引っ掛かってしまいました。…私はいい読者だよ(苦笑;)
 
 『灰色の北壁』:登山家・刈谷修が死んだ。かつて彼が挑戦、成功したヒマラヤ山脈カスール・ベーラへの単独登頂に疑問を投げかけたノンフィクションライターは、刈谷の妻に、山頂からの証拠写真のポジを調べさせてくれ、と頼むが断られる。どんなに疑惑が持たれようと沈黙を守り通した刈谷の思惑は、敬愛する先輩登山家であり、妻の前夫であった御田村良弘の名誉に関わっていた。…
 何とも爽やかな読後感。

 『雪の慰霊碑』:三年前、山で息子・譲を亡くした坂入慎作が、その雪山への登頂を試みる。全てを整理した家の様子に、後追いではないかと気を揉む譲の婚約者・多映子。多映子に、密かに思いを寄せる従兄の野々垣。彼は譲への嫉妬から、サポートを疎かにした後悔があった。…
 多映子と慎作とのどんでん返し(?)にしばらく気が付きませんでした。野々垣君、可哀想に。

 登山用語が何の説明もなくばんばん出てきます。一々解説入れてたら流れは途切れる訳で、この場合読み流すのが正解でしょうね。分からなくても、話自体には何の支障もなかったし。どれも「いい話」でした。