読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

この世の春 上・下 宮部みゆき著 新潮社 2017年

 ネタばれあります、すみません;

 下野北見藩の若き藩主 北見重興が「押込」にあい、神鏡湖ほとりの別荘 五香苑の座敷牢で隠居の身となった。理由は乱心、辻褄の合わない言動を繰り返し、一人の御用人ばかり重用する采配に、家老衆が反旗を翻した。重興の寵臣 伊東成孝の親族だったことから、各務多紀は五香苑に連れて来られる。成孝は重興の乱心を、前藩主 北見成興が自分の一族を村ごと根絶やしにしたその恨みから来たものだ、一族の数人が憑りついているのだと多紀に語る。多紀の一族は代々、人の霊魂と意思を通じさせる技 御霊繰をなし得る能力を持っていたのだ、と。だが、重興と語り合った多紀は、その判断を否定する。重興の中には小さな男の子と妙齢の女、そして修羅のごとき激情を抱えた男が在住していたが、誰も一族のものではなかった。
 重興の中の別人格を探るうち、多紀や医師の白田登は、幼い頃重興が受けた虐待に辿り着く。相手は実の父親、北見成興だった。多紀は元家老 石野織部から、実は重興は乱心のまま、父親を殺していたのだと聞かされる。
 名君と名高い前藩主に、どんな裏の顔があったというのか。十八年ほど前から数年間、城下で連続して起きていた少年たちが行方不明になっていた事件との係わりはあるのか。成興が重興を苛んだとき、常に傍らにいたという女の正体は。成孝が行方をくらまし、神鏡湖からは子供のしゃれこうべが見つかる。
 多紀の一族が根絶やしにされたのは何を知ったからなのか。…


 珍しいな、というのがまず持った感想。宮部さんはその親しみやすい文章で、でも心の闇を書いたりもしてらっしゃったのですが、こういう歪んだ情欲絡みの闇は今まで手を付けてらっしゃらなかったよな、と。
 現代の知識を持って読んでしまうので、重興が多重人格者だよな、で父親から性的虐待を受けてたよな、ってのはかなり早い段階で察しがつくんですね。さすがに現代ものではなく時代物に持って行ったか、さて、どう結末をつけるのか、と読み進みました。
 …そうか、操られてることにしちゃったか。何なんだろう、頑張り切れなかったように感じてしまうのは。
 連想したのは萩尾望都著『残酷な神が支配する』。成興の仮面といい、実際影響は受けてるんじゃないかなと思うんですが、あの作品がとにかく容赦のない徹底的な内容で(まぁ義理の親子の関係だったけど)、あの作品を基準に考えると、そうか、こうしたか、とちょっと思ってしまう。でもそれが宮部さんの個性であり、品性でもあるような。
 新しいことに挑戦しているな、ということはひしひしと感じました。