読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

カメリ 北野勇作著 河出文庫 2016年

 楽しいって、なんだろう?
 世界からヒトが消えた世界のカフェで、模造亀(レプリカメ)のカメリは思う。朝と夕方、仕事の行き帰りにカフェを訪れる客、ヒトデナシたちに喜んでほしいから、今日もカメリは石頭のマスターとヌートリアンのアンと共にカフェで働き、ささやかな奇跡を起こす。
 心温まるすこし不思議な物語。                         (裏表紙紹介文より)


 模造亀(レプリカメ)のカメリは、沼地戦闘専用ヌートリア擬人体 ヌートリアンのアンと、石頭のマスターとカフェで働いている。お客さんはヒトデから作られたヒトデナシ、この世界をヒトが住めるように働いている。ヒトはいつの間にかこの世界からいなくなってしまった、今ではテレビの中の世界に引っ越してしまっている。
 お客さんのヒトデナシに喜んで欲しいから、カメリは今日も色々な工夫をする。
 産んだ卵をオムレツにしたり、ケーキがどんなものか知りたくて行列に並んだり、エスカルゴやカヌレを作ったり。
 映らなくなったテレビのケーブルを伝って、テレビ局のあるレジャービルまで行ったことも。
 ヒトデナシもそんなカメリに感謝して、商店街の福引券をくれたりする。おかげでカメリは夢のハワイ旅行を当ててしまった。
 ある時はカフェが一晩で巨大な山の頂上に乗っていたり、ヒトデナシに誘われて海の家を開いたり。ヒトデナシが積み重なってできたクリスマスツリーの飾りつけにもなった。…


 北野さんの作品は、デビュー作『昔、火星のあった場所』を読んで以来です。
 解説が森見登美彦さん。なるほど、と思ってしまった。
 確かに森見さんと作風似てるかも、ゆったりとした愛らしい世界。でも森見さんが可笑しみに向かうのに対し、北野さんの世界は哀愁や哀惜に満ちている。
 ただ、自分の産んだ卵をオムレツにしても平気だったり、メトロの卵を食べたり、ヒトデナシがヒトバシラになることが当たり前に描かれていたり、妙にドライで決して湿っぽくはない。
 不思議な世界をそのまま読者に受け取らせる、これも巧さというか個性なんでしょうね。