読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

藍のエチュード 里見蘭著 中央公論新社 2014年

 東京藝術大学剣道部を舞台に繰り広げられる青春群像劇。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 美術学部絵画科日本画専攻三年の粟生野壮介が主将を務める剣道部に、新入部員がやって来た。油画専攻、同じ三年生の高杉唯。彼女は、常人離れしたその才能をカリスマ美術商・飴井匡に見込まれた。ただ、契約に至る条件として、秋までに初段を取ること、と言われたらしい。
 とにかく段位だけがほしい、という態度もあからさまな唯。腹立たしく思いながらも、壮介は持ち前の面倒見のよさと成功報酬につられて、唯の指導を引き受ける。
 壮介に密かに恋しているのが、音楽学部器楽科弦楽専攻二年、法眼寺綾佳。絵に描いたようなお嬢様の彼女は、自身のヴァイオリンに行き詰まりを感じていた。壮介との淡い恋は、壮介が唯に惹かれて行くにつれて破局を迎える。綾佳は親の決めた相手とお見合いし、ヴァイオリンを諦めて海外での結婚生活を決意する。
 綾佳や壮介の相談相手で、就職難に悩んでいるのが美術学部デザイン科四年、新田梨奈。妻子ある交際相手から結婚をちらつかせられるが、彼女はそんなことは本気にしていない。同じ剣道部の美術学部彫刻専攻の四年生 弓削諒二との関係もずるずる続いている。
 唯の圧倒的な才能とその決意に、各人は自身の覚悟を突き付けられる。唯自身もまた、人と関わることで自分の才能をさらに開花させて行く。…


 芸大が舞台、というとどうしても思い出すのが『ハチミツとクローバー』。あの作品では美大でしたが、主人公は、はぐちゃんはじめとする神様から才能を貰っている人たちに圧倒されながら自分の道を決める訳で。
 唯の、「芸術で食って行く」ことに対する価値観、ってのはなかなか新鮮でした。…というか、それを言いきってしまうのは、そりゃ浮くよなぁ(苦笑;)。で、また言い方もあるし。境遇云々の問題ではなく、あの協調性のない態度は、そりゃ人としてどうだろう、と思ってしまいました。そんな唯に、呆れながらも世話を焼く壮介。迷っていた彼も、当初とは違う方面に才能を伸ばし始めます。
 梨奈も結構変わったキャラクターでしたね。普通不倫しているような女の人は、不快感があって当然なのに、とにかく妙にさっぱりして憎めない。弓削諒二のように、才能があるのにふらふらしているのは、やっぱり勿体ないと思ってしまいますねぇ。折角の才能なんだから伸ばせよ。…その努力まで含めて才能、なのかなぁ。
 自分の経験全てを糧とするってのは、芸術家に限らず、全ての人に言えることなんだろうな、とふと思ってしまいました。それと向き合うことで、成長して行けるということで。