読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

小太郎の左腕 和田竜著 小学館 2009年

 和田竜、三作目。
 戦国時代、とある戦に巻き込まれた少年を巡る話。
 ネタばれあります、すみません;

 1556年。領地争いに勤しむ戸沢家には猛将・林半右衛門がいた。児玉家との戦の中、次期当主・戸沢図書が犯した敵陣に深く入り込むという失態を、半右衛門は自分の勇猛で救い出す。深手を負って逃げ込んだ山中で、半右衛門は要蔵と名乗る猟師とその孫・小太郎に命を救われた。礼をする、と切り出した半右衛門に、自分達を放っておいてくれという要蔵に対し、小太郎は鉄砲試合に参加させてほしい、と言い出した。
 お安いご用、と参加させた秋の収穫後の鉄砲試合だったが、小太郎の成績はまるで冴えない。しかしふと思いついた半右衛門は、小太郎に左構えの火縄銃を持たせてみる。すると、小太郎は神がかった鉄砲の才能を見せた。これこそが、祖父・要蔵が隠しておきたかったことだった。
 まだ子供ながらの腕前、ぜひ小太郎を召抱えたい。だが優しすぎる小太郎に戦は無理だと要蔵は言う。半右衛門もその言葉に納得し、要蔵たちは元の山村に戻った。しかし、その後に起こった戸沢城での籠城戦、勝ち目のない戦いに、結局半右衛門は小太郎の元へ走ることになる。小太郎の左腕は敵将を次々に仕留めて行くが、半右衛門の気持ちは折れたまま。何故なら、小太郎が敵将を撃つよう仕向けるため、要蔵を殺したのは自分だったから。
 籠城戦に勝ち、褒美として家を得た小太郎に、伊賀者の手が伸びる。戦の勝敗まで決する腕を持つ小太郎は、敵には手に入れたい人物だったし、味方にとっては脅威になっていた。小太郎を護ろうとして、小太郎はやっと得た友を喪う。そして自身も、切腹を申しつけられる。
 小太郎を切り捨てた盟主の無情に、半右衛門は漸く動き出した。小太郎を逃がすため、盟主・戸沢利高に刃を向ける。…
 
 私が戦術だの戦略だの、っていうものの面白さを知ったのは田中芳樹著『銀河英雄伝説』から。この作者ももしかしたら好きで読んでたんじゃないかなぁ、同年代だし。ええ、私、ゲーム『ファイアーエムブレム』も好きですとも。
 河を挟んでの合戦から始まって、負けると分かっていても盟主に従う籠城戦。上手く行くかに見えたのに伊賀者という飛び道具のせいで(これはファイアーエムブレムでの魔導師かなぁ(笑))、逆転の危機に。決死の覚悟で半右衛門が敵陣を走る。わくわくする展開、テンポのよさ。
 気持の通じ合う人間が、味方ではなく敵にいる矛盾。でもそれは相対して人格を認め合ったからこそ。図書の、同じ一人の女性を愛した遺恨、半右衛門の拘り。小太郎の家臣となった玄太の、幻に対する目覚め方は哀しかったですね。父親がそんなことを言う筈がない、って思ってしまえるというのは。
 でも、読後感はよかったです。不思議なくらい。
 表紙は引き続きオノ・ナツメさん。ざっくり太い線がかっこいい。あってますねぇ。