読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

蕃東国年代記(ばんどんこくねんだいき) 西崎憲著 新潮社 2010年

 中国と日本の間に位置する架空の国・蕃東を舞台にした連作短編集。
 ネタばれになってるかな、すみません;

 雨竜見物
 臨光帝が即位して間もない頃、蕃東の第一の都景京にて。
 都の北、塞の大地の水の色が変わっていると言う。どうやら竜の卵が孵るらしい。竜が天に昇る時はたいがい雨を使う。宇内は供の者を連れて雨竜の見物に出かける。
 滅多にないことなので、大池の周りはお祭り騒ぎ。貴賎を問わず人が集まり、出店も並んで賑々しく、今か今かと昇竜を待ちかまえる。ただ、その大池には得体のしれない獣も棲んでいた。

 霧と煙
 臨光帝の御代、舟合わせの会で。
 にわかに吹いた突風で、多くの舟が転覆した。一艘の小さな船に、ようよう這い上がった4人の男女。平民の男が一人、貴族の男が一人、商人の男が一人と武家の娘が一人。
 焼けつくような渇きの中、二度目の夜。奇妙なものが現れて、4人の取引を申し出る。4人それぞれの大切なものと引き換えに、命を助けてやろうと。

 海林にて
 藍佐の務めは、海外からの輸入品に掛る関税を召し上げること。今回は特に税が改められたばかりで、憎まれ役になったようなもの。
 仕事を終えて海林の町を散策していた藍佐は、料理屋で二人の男と出会い、不可思議な話を披露しあうことになる。

 有明中将
 類い稀な美しさを持った有明中将は色々な人に愛された。
 炭焼きの子として生まれた志波は、貧しく不幸な生い立ちながらその巨体を生かして角力とりになった。敵なしとなった志波は有明中将に雇われ、比良坂の化怪と闘うことになる。志波は中将の名誉のため、一人比良坂に向かう。
 琥珀をとるため三珂山へ入った有明中将は山の神の呪いを受け、瀕死の状態になる。彼に魅せられた娘・東乃は山の神の力を弱める薬を手に、中将の元に走る。途中、山の神の容赦ない妨害を受けながら。

 気獣と宝玉
 集流の姫君への結婚申し込みのため、宇内は行方不明の宝玉・風帯の三玉を探す旅に出る羽目になる。古文書を紐解いて北の灰山へ、そこの宮の宮司に玉を封じた場所を記していると思われる文書を読ませて貰い、いよいよ山中へ。玉をそれぞれ守っていた怪異の威力も弱っており、見知らぬ者の助けも受けて、宇内は何とか宝玉を二つまで手に入れる。とうとう三つめ、一番の難関、未だ怪異の衰えない祠を前に、見知らぬ者にはそれなりの思惑があったことが判明する。…


 この作家さんは2002年の第14回ファンタジーノベル大賞受賞者。受賞作『世界の果ての庭』も読んでいる筈なのですが、これがあまり覚えていなくてですね;; これは本当に珍しい、好みかどうかはさて置いて、私、受賞作はぼんやりとは覚えてるものなんですが;;
 で、今回です。一応これが受賞後初作品になるのかしら; 最初、設定を飲み込むまでちょっと時間がかかりましたが、お話自体は凄く好みでした。元々こういう、民話じみた話は好きなので。
 とりとめのない挿話、「小舟にひと振りの刀だけが乗っかって流れてくる話」とか「二十年前にそっくり同じ人物が乗っている舟を見た話」とか、後々何かの伏線になるのかしらと思っていたらそんなこともなく(笑)。いや、このご時世、このまま捨てて行く勇気は凄いよ(笑)。
 『気獣と宝玉』の、宝の在り処の書かれた謎の文章を読み解いて…の展開はやっぱりわくわくしました。いや、シャーロック・ホームズの短編『マズグレーブ家の儀式』私好きでしたもの(笑)。で、最後のあっさりした終わり方も好き。全部が無駄にはならず、病弱な父親に…って言うのは何だかほっとしました。
 どうやら近作が出ていて、それが面白いらしいので楽しみです。