読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

涅槃の雪 西條奈加著 光文社 2011年

 天保の改革を背景にした連作短編集。

 茶番白洲 |隠売女大手入り|
 北町奉行吟味方与力・高安門佑は、新任の北町奉行・遠山左衛門尉景元の妙に気に入られてしまった。直々に「片腕になれ」と目を掛けられ、直属の上司のやっかみも被って、正直有難迷惑。
 老中・水野忠邦の命令で隠売女の取り締まりに参加した門佑は、女郎・お卯乃と出会う。年若い少女を逃がそうと自分が囮になるような鼻っ柱の強い女、お卯乃。遠山は門佑に、行儀見習いとして当分の間お卯乃の面倒を見ろ、という。

 雛の風 |奢侈禁止令
 奢侈禁止令が出て以来、江戸の町に活気がなくなっている。お卯乃の顔なじみだという享保雛の頭職人・市介も仕事がなくなっている様子、そんな中、門佑の家に姉の園江が出戻ってきた。いつまでも家事も満足にこなせず、口の悪さも変わらないお卯乃を、そんなお卯乃を囲う訳でもない門佑を厳しく叱咤する。巷では、厳しい禁止令への反発か、役人が鋭い刃物で狙われるという事件が頻発していた。

 茂弥・勢登菊 |寄席取払申付|
 北町奉行・遠山と南町奉行・矢部の反対を押し切って、二百余りある寄席を、十数件に減じろとの命令が下った。その手始めとして女浄瑠璃語りの手入れが計画される。だが検挙された中に、当代きっての人気浄瑠璃語り・勢登菊の姿はなかった。深川の長屋で付き人の男とひっそり暮らしていた勢登菊を見つけた門佑は、望まぬながら彼女を追い、捕縛した手下が彼女の顔に傷をつけてしまう。彼女に持ちあがっていた妾話も潰れてしまうほどの。

 山葵景気 |株仲間解散令|
 物の価格を操作している株仲間の、解散令が出された。害悪もあったが流通に関してのプロを蔑ろにした行為に、物価は却って上昇。庶民を苦しめる悪法に、遠山と息を揃えて反対していた南町の矢部は、とうとう失脚に追い込まれる。蟄居先の桑名藩松平藩で矢部は飢え死に、お上に命を賭して抗議。門佑はその姿に涙するが、お卯乃は飢饉で食べる物すらままならない百姓から見れば、馬鹿な行為でしかないと言う。その価値観の違いは決して埋められない、と園江は門佑を諭す。

 涅槃の雪 |芝居町所替|
 気まずくなった二人の様子を心配して、遠山は門佑に芝居見物を勧めた。もうすぐ所替えになってしまう木挽町河原崎座の中、二人の目の前で、河原崎座座元の息子・長十郎が誘拐される。一方、新しく南町奉行に就任した鳥居耀蔵門佑に、南町に移って自分の元で働くよう誘いを掛けて来た。

 落梅 |人返し令|
 江戸の民を故郷へ返すよう、人返し令が発布された。自分も越中へ戻らねばならないのではないか、と気にするお卯乃。ずっとここにいればいい、という門佑に対し、園江はお卯乃を追い出してしまう。また鳥居に声をかけられたことが噂になり、門佑の立場は、奉行所でも微妙なものになっていた。

 風花 |天保改革の終焉|
 遠山景元が北町奉行を免ぜられた。お卯乃は行方をくらませたまま、戻って来ない。誤解が誤解を産んで門佑の肩身も狭くなる一方、上知令が発布される。だがこれには大名旗本からの猛反発が酷く、さすがの水野も矛先を鈍らせ、それがかえってそれまでの仲間に愛想を尽かされる結果を招いた。水野は失脚し、鳥居も四国讃岐丸亀藩にお預けの沙汰が下った。北町奉行に戻った門佑は、数年後、鳥居の元を訪れる。…


 西條さん、天保の改革好きだなぁ。『恋細工』もこの頃を舞台にした話でしたよね。今回の作品は、どこまでが史実で何処までがフィクションなんでしょう。時代劇でお馴染の遠山左衛門尉が、こんな風に描かれるとは(笑)。いや、人懐っこい、いい人なんですけどね。
 『恋細工』の方が好みなのは、あれは職人さんの世界を描いてたからでしょうか。今回の作品も面白かったんですが、特に園江さんの造形は見事で。あの負けず嫌いで理性的、合理的な性格はある意味爽快。でもお友達にはしたくないかも(笑)。
 ハッピーエンドなんだろうな、っていうのが察しがついてしまうのは少々残念でした。それとも私がライトノベルに毒されてるだけかな。女の子向けのラノベは、絶対後味悪くなりませんから。