読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

善人長屋 西條奈加著 新潮社 2010年

 裏稼業持ちの悪党ばかりが集まった、通称「善人長屋」にまつわる連作短編集。
 ネタばれになるかな、すみません;

 善人長屋
 質屋千鳥屋がある千七長屋に、錠前屋の加助が入った。他の住人は皆脛に傷持つ身、なのに加助は根っからの善人。何にでも感情移入して手助けしたいと首を突っ込む。
 元掏摸の浜屋長兵衛の娘・小夜が身籠った。大店・玄海屋に輿入れが決まった矢先の出来事、しかしお腹の子供はの父親は玄海屋ではない。何とか好いた男と添わせてやりたいと言う親心に、長屋の連中が一肌脱ぐ。玄海屋の若旦那に小夜を振らせようと、美人局を企てる。

 泥棒簪
 日本橋酒問屋の女中・お貞が、お嬢さんの簪を黙って持ち出して盗まれてしまった。盗人はすぐ目星がついたが、肝心の簪が見つからない。居候を決め込んでいる後家さんが、気に入って手放さないようだ。どこに隠したのか突き止めるため、千七屋のおかみ・お俊と娘のお縫が一芝居打つ。

 抜けずの刀
 浪人の梶新九郎がお縄になった。待ち合わせしていた娘が、その場で殺されていたらしい。袈裟掛けの刀傷も決め手の一つとされたが、加助は承知しない。毎日番屋に押しかけて、新九郎は下手人ではないと涙ながらに訴える。現場に落ちていた櫛を手に入れたお縫は、娘の通夜葬式で怪しい男に出会う。果たして、新九郎とは以前から因縁のある男だった。

 嘘つき紅
 加助が連れて来た男は、とある紅屋に騙されたと言う。調べると、相手は地方地方を散々回って、あちこちで騙りを働いている名うてらしい。今度ばかりは相手が悪い、と渋る千鳥屋儀右衛門に業を煮やし、お縫は長屋の菊松・お竹夫婦に話を持ちかける。裏では騙りで鳴らすこの夫婦は、成金指物師を演じてみせる。

 源平蛍
 久しぶりに、源平が帰って来た。娘のように可愛がっていたお恵が死んでしまったのだとか。紙問屋へ輿入れした矢先、店の客の浪人と心中したという一件は、江戸でかなりの噂になっていた。そこの女中から、お恵は実はそこの若旦那と大内儀に利用され殺されたと言う話を聞いて、源平は「源平蛍」を灯す決意をする。「源平蛍」――火付けは、加助の過去を呼び起こした。

 犀の子守歌
 唐吉・文吉兄弟は、昔陰間茶屋に売られて働いていたことがある。そこの同輩・犀香がすっかり身体を壊して加助に保護された。人より進んで辛いことを受け持とうとする犀香は、以前は井筒藩藩主刈田直矩に仕えていたと言う。未だ主人を慕う犀香に、お縫達は一目刈田に会わせてやりたいと思う。

 冬の蝉
 髪結いの伴造は情報を売っている。そのせいで二重スパイの疑いをかけられて、命からがら逃亡生活を送ったことがある。当時、そんな彼を信じて助けてくれたのが、まだ千鳥屋の跡を継いでいない儀右衛門だった。

 夜叉坊主の代之吉
 師走の富岡八幡宮で、加助は火事で喪った筈の妻・お多津を見つけた。はしっこい文吉が引き継いで探したが、撒かれてしまう。どうも堅気ではないらしい。見失った寺・祐念寺にいたのは夜叉坊主の代之吉、ひどい押し込み強盗で名を馳せた悪党。今は、野洲屋の蔵を狙っているらしい。

 野洲屋の蔵
 野洲屋の蔵の鍵は、どんな盗人にも開けられないと言う。その鍵を作ったのは加助の師匠、代之吉は加助に鍵を開けさせようとして、お多津を送りこんでいた。数年越しのこの計画を頓挫させて、また加助とお多津との幸せな暮らしをさせてやりたいお縫。だが、お多津は別の決意を秘めていた。…

 江戸時代のスパイ大作戦と言うかハングマンと言うか。
 するする読めて面白かったです。でも何だろう、何か物足りない。可もなく不可もなく、って感じ。…ってこの作者の前の本も似たような感想だったんだよな~。何か薄味と言うか…。
 ちゃんと面白いのに、不思議です。何なんだろうなぁ。
 加助の造形「人の嘘や悪意から目を逸らし、善意だけを見ようとしている」ってのは、無意識にでもやってる人多いのではないのかな、と思ったり。特に職場なんかでは、その方が人間関係スムーズに行くし。…とこっそりクビをすくめました。最初の悪意に気付かなかったら、それ以上の悪意は重ねて来ないこともあるし。