読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

小暮写眞館 宮部みゆき著 講談社 2010年

 シャッター商店街の一画「小暮写眞館」に引っ越してきた花菱家に持ち込まれる心霊写真。長男で高校生の英一がその写真の込められた「想い」を紐解いて行く連作短編集。
 ネタばれになってるかな、すみません;

 第一話 小暮写眞館
 普通のサラリーマン家庭なのに、父・花菱秀夫は商店街の中の古家を買い、中だけ少しばかりリフォームしただけで住み始めた。「小暮写眞館」の看板もそのまま、おかげで営業再開と誤解した他校生から、英一は一枚の写真を押し付けられてしまった。
 おそらく親子と思われる老夫婦と息子の三人、それに中年婦人が二人。そして顔だけしかない女性。写真の家族の正体は、不動産屋ですぐに分かった。残りの二人は老夫婦が信仰していた新興宗教の信者らしい。昔ながらの人達が住む町内で聞き込みを始めると、この一家の背景が見えてきた。写り込んでいた女性の正体も。

 第二話 世界の縁側
 前回の写真の騒動のおかげで、英一には不本意な噂が立っている。正月明け、またもや奇妙な写真が持ち込まれて来た。バレー部に所属する田部先輩から押し付けられたそれは、幸せそうに笑う親娘の横に、泣いている同じ親娘が浮かび上がっていた。この写真の真相を解明しろという無茶苦茶な要求に、英一はこの写真を撮った本人に直接訊いてみることにする。それは娘の婚約者だった男だった。

 第三話 カモメの名前
 フリースクールに通う小学生達を撮った写真に、黄色い奇妙なぬいぐるみが写っている。明らかにに合成写真、撮って焼き増しした少年は、「これはカモメだ」と言い張っているらしい。その少年は不登校になる要因がどうも見当たらない「優等生」で、何らかのメッセージをこの写真に込めているように思われる。偶然そのカモメが自主製作映画に出て来るぬいぐるみだと知った英一は、不動産屋の無愛想な受付嬢・垣本順子を誘ってその映画を見に行く。少年の真意をすぐに見抜いたのは彼女だった。

 第四話 鉄路の春
 秀夫の父、つまり英一の祖父が死んだ。七年前の妹・風子の死以来、親戚とは絶縁状態になっていて、わだかまりはまだ解けていない。葬式に出ろという京子と出ないと意地を張る秀夫のやりとりは、弟の光に精神的な不安を呼び起こす。夜尿症を発し、描く絵のタッチが変わり、風子と話すためにも小暮老人の幽霊と会いたいと切望する光の姿は、英一が深く沈めていた後悔も揺さ振り起こした。文化祭を挟んで、垣本順子の過去を否応なく知ることになって、英一は秀夫の代わりに祖父の四十九日法要に出ることを決める。英一が親戚連中に啖呵を切った帰り道、付添いを頼まれた垣本順子は、自分を写したカメラを持っていてくれ、と英一に頼む。…

 …泣いたな~。要所要所で泣きました。
 宮部さんお得意ですよね、英一君にしろテンコちゃんにしろ、こういう男の子描くのは。
 第一話からちらちら見える、普段は明るい花菱一家に落ちる風子の影。口を開けば罵倒しか出て来ない、態度の悪い不動産屋の受付嬢。英一の高校生活を背景に、繋がり影響しあって行くエピソード。
 余計というか、回り道に見える友人や家族との会話も楽しい。主要な話だけだとかなり重かったり暗かったりする話なのに、このやりとりで思わずくすくす笑っちゃう。

「今のは自戒か? それとも懺悔か。懺悔なら聞いてやるぞ、迷える子羊よ」
「私はローマ・カトリックじゃなくて、東方正教会の信者なのですよ、パードレ」
 頭のいい奴の冗談は、これだから嫌だ。

 そうそう、頭の良し悪しじゃなくても、その世界だけで通じるギャグってのは妙に面白いよね(笑)。
 個人的に切なかったのは、コゲパンちゃんのエピソードかなぁ。気に入らないなら気に入らないでほっといてくれたらいいのに、何であんな残酷なことをするやら。よく「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心」とか言いますが、いや、無関心の方がいいよ、害ないもの。ラスト、大泣きした彼女にも橋口くんという彼氏ができてよかった。橋口くんの「受験に集中したいから」で告った女の子を断ったエピソードは、私もコゲパンちゃんの味方になるぞ。ちゃんと「彼女がいるから」って言えよ、この(笑)。
 風子ちゃんについても、辛かったなぁ。…あんなこと、面と向かって言う人いるのかな。…いるんだろうなぁ(ふぅ;)。親戚間のいざこざは、ちょっと身につまされました(苦笑;)。子供は知らない経緯があって、でもどこからか察してしまうんですよね。
 垣本さんは、もう英一くんには会わないのかな。彼女は英一君にとってのメーテルでしたね、随分イメージ違うけど(笑)。すっかりほとぼりが冷めた頃、また再会してくれたら、と思います。