読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

陰日向に咲く 劇団ひとり著 幻冬舎 2006年

 ピン芸人劇団ひとり初の著作。
 連作短編集。
 ネタばれになってるかもしれません、すみません;

 道草
 仕事でプレッシャーを感じていたあの日、家に帰っても妻も娘も態度が冷たい現実に、「私」はホームレスに憧れるようになる。始めは週末だけの気晴らしだったのに、そのうちホームレス仲間と、終日公園に寝泊まりするようになった。
 ある日、プロ野球選手のK・Y代理人と名乗る男が公園に現れる。K・Yは幼い頃行方不明になった父親を探しているらしい。仲間の一人、モーゼと呼ばれる大ボラ吹きの顔色が変わった。

 拝啓、僕のアイドル様
 僕はアイドル武田みやこのファンだ。彼女のためなら死ねる。死んで守護霊になって、彼女がTVに出る手助けをする。その位彼女のファンだ。新聞を読まない彼女の為に、時事ネタを解説したファンレターを送るほど、全身赤タイツで「ドロドロ血液のドロ子」を演じる彼女のために、番組のHPに百件以上の書き込みをするほど、だって僕はずっと前から彼女のファンで、彼女は僕のアイドルだったから。

 ピンボケな私
 私の夢はカメラマン、ってことになってる。実際は買ったデジカメにメモリーカードもつけられないような腕前だけど。
 友達ミキと行った飲み会で知り合ったタクミ君は、ハンサムで優しくて面白くて、私は一目惚れしてしまった。一週間後、メールが来てまた会って彼の部屋に行って、でもその後連絡がなくなって、とうとう彼の部屋に押しかけたら、そこにいた友達まで私に迫って来た。

 Over run
 ギャンブルで借金まみれ、切羽詰まった俺はオレオレ詐欺に走ることにした。公衆電話でリダイヤルボタンを押してかかった相手は、俺を「健一」と呼んだ。金をせびる筈が、日常会話で終わってしまう。しかもそれから毎日。いよいよ婆さんと会う算段をつけてアパートを訪ねると、そこではひっそりと葬式が上げられていた。

 鳴き砂を歩く犬
 修学旅行で行った東京浅草で、鳴子は売れない芸人と出会った。芸は全然面白くなかったけど、鳴子は彼が忘れられなくて、三年後、鳴子は鳥取から上京して彼を探し始める。
 毎日何軒も劇場を回って、芸人を見て回る。お金が尽きて働き口を求め、ストリップ劇場に入る。そこで漸く、鳴子は彼――プードル雷太を見つけた。
 彼を売れっ子の芸人にしたくて、鳴子は雷太と組むことにした。鳴子の書くネタは客にウケるが、雷太のやりたいネタではない。鳴子に説教される鬱々とした日々、雷太は同じ劇場に出ているストリッパーで芸術家・ジュピターさんに恋していた。…

 爆笑問題太田光さんが、以前TVで絶賛していました。太田さん推薦の本は、読んで外れだった試しがないので気になっていたその上、べるさんも誉めてらっしゃったのが決定打、いよいよ読むことを決意しました。…とかいいながら随分遅くなってしまいましたが。何しろ凄い予約者数だったので(苦笑;)。
 成程、面白かった。
 連想したのはいしいひさいち四コマ漫画だけどドラマが展開していく、あの感じ。短いエピソードを連ねていって、書かれていない所を想像させる。なのにどんでん返しがあったりして、それが裏切られたりする快感。時系列でまであっと言わされました。『Over run』のラストなんか、久々、電車の中で涙ぐんでしまいましたよ。
 どの話も登場人物に感情移入しにくい設定なのに、最終的には愛しくなってるのは何なんでしょうね。各話がほんのり繋がってるのも楽しかった。
 でもここまでヒットすると、次回作は確かに難しそうですね。また書くのかなぁ。