読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

トーキョー・プリズン 柳広司著 角川書店 2006年

 戦後すぐ、巣鴨収容所で起きた事件と、そこに収容されていた一人のBC級戦犯を描いた推理小説
 ネタばれになってます、すみません;

 元ニュージーランド海軍少尉エドワード・フェアフィールドは、戦争中行方不明になった従兄弟を捜しに日本のスガモプリズンを訪れた。エドワードの私立探偵と言う今の職業に嫌悪感を隠さないジョンソン中佐は、情報を提供する交換条件として、エドワードに一人の囚人の相手役を勤めるよう命じる。
 囚人の名はキジマ・サトル、元日本陸軍中尉。外国人捕虜の虐待・殺害容疑で捕まっていた。ところが彼は記憶喪失で、この五年間の記憶を一切失くしていると言う。そんな人物を裁判にかける訳に行かず、手続きはまるで進まない。ジョンソン中佐はエドワードに、キジマの記憶を取り戻させろと言う。
 実際キジマに会ってみると、彼は一言も言葉を交わさないうちから、エドワードの国籍や考えていることまで推測してみせるような頭脳の持ち主だった。折しもスガモプリズン内で起こった毒死事件について、二人は考えを巡らすことになる。
 そのあまりにも融通が効かない看守は、周囲から嫌われていた。密室状態の自室で死んでいたので自殺かと思われたが、それにしても毒物を持ち込んだルートが分からない。状況を聞いたキジマはエドワードにいくつかの事実の確認を指示する。
 調査に関わるうち、エドワードはキジマの親友・頭木逸男と婚約者・杏子の兄妹と知り合う。キジマを救いたいと活動する彼らの証言で、捕虜のキジマに対する虐待証言は文化の違いによる認識のすれ違いだと判明して来る。その物的証拠、キジマへの捕虜からの感謝状を手に入れようとするが、感謝状が入った鞄ごとひったくりに会い、捕虜殺害の真犯人だと言う売春婦もやがて行方不明になってしまう。
 ことごとく消えていく証拠や証人。やがてスガモプリズン内で第二の密室毒死事件が起きる。二度も続けば殺人と見なされるだろう、とエドワードへの風当たりも強くなる。
 現場に落ちていた折れた小枝、少し開いていた窓。収容所の歯科医の自殺、切り取られていた貸出本。キジマに導かれるように、エドワードは実行犯に辿り着く。だが、その人物に外の世界から毒物を渡した人物が浮かび上がらない。
 全ての謎が明らかになったのは20年後、杏子とニュージーランドで再会した時だった。…

 おかしいなぁ、結構重い内容なのにどうしてするする読めたんだろう。 
 ミステリとしては楽しめました。オウムに小枝くわえさせて、ってのは別の海外ミステリか何かで読んだ気もしないでもないけれど、伏線が収束して行く快感は十分。でも文化の違いによる虐待疑惑、ってのは何となく察しがついちゃったなぁ。ああ、ゴボウのことだなとか魚の干物や納豆のことかな、とか。
 あの時代の戦争責任、今にも通じる日本人の気質にまで踏み込んだ内容なのに、後味が軽いと言うか、あまり何も残らなかったと言うか…。綺麗に料理されすぎてアクや癖が抜け落ちてしまったような。
 出来すぎた故の弊害でしょうか。…いや、私個人に受け取る土壌がなかったんだな、反省;