読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

タルト・タタンの夢 近藤史恵著 東京創元社 2007年

 下町の片隅にある小さなフレンチ・レストラン<パ・マル>で起きた小さな謎を、無口なシェフが絶品料理と共に解いていく連作短編集。

 タルト・タタンの夢
 常連のお客様が連れて来た女性は、人気小劇団の看板女優。二人は近々結婚するのだとか。いかにも幸せそうな様子だったのに、次に来た時には、常連客の体調が優れないと言う。彼女の作ったフランス料理を食べてからだと言うことを聞いた三舟シェフは、彼女の熱烈なファンに目を向ける。

 ロニョン・ド・ヴォーの決意
 すさまじい偏食家の客が来店した。美しい女性と共に現れた客は、何とかロニョン(仔牛の腎臓)も気に入ったらしい。所が、きちんと下ごしらえした内臓料理に感化されたのは、連れの女性の方だった。

    …いや、でも旦那さん浮気してた訳で、奥さんはそれをあっさり許したのかしら??
    何か物凄く勝手な気が…;;

 ガレット・デ・ロワの秘密
 料理人の志村さんの奥さんはシャンソン歌手。クリスマス、嫌がる志村さんを説得して、<パ・マル>でリサイタルを開くことに。打ち上げの会で奥さんは、フランス留学中に起きた不思議な出来事を語る。フランス菓子ガレット・デ・ロワに中に入っていた筈のフェーブ(陶器人形)はどこへ消えたのか。

 オッソ・イラティを巡る不和
 仲よく見えた夫婦だったのに、次に来た時、旦那さんは奥さんが出て行ってしまったと嘆く。奥さんのフランス旅行のお土産のジャムを、勝手に人にあげたことが原因だろうと察しはついているが、それでも今一つピンと来ない。チーズ好きの旦那さんのために、三舟シェフはとっておきのメニューを用意する。

 理不尽な酔っぱらい
 商店街の甘味処のご主人が、高校時代の友人を引き連れてやって来た。ご主人は高校時代、プロのスカウトも来るほどの野球選手だったらしい。思い出話に花が咲く中、今でも不思議なのは、野球部の合宿で酔っ払って不祥事をおこした後輩のこと。一体彼はどこでアルコールを手に入れたのか。父兄からの差し入れに、シェフは目を付ける。

 ぬけがらのカスレ
 今夜のお客は編集者と女性エッセイストの組み合わせ。フランスへ留学経験のあるエッセイストのリクエストは、鵞鳥のコンフィのカスレ。同棲していた当時の恋人との、苦い思い出のある料理らしい。何故今さらそんな料理を頼んだのか。 

 割り切れないチョコレート
 業者から取り寄せていたチョコレート菓子の質が落ちた。それを指摘したのは何とも態度の悪い男性客。テーブルで女性と痴話喧嘩らしきことをしていたこともあって、あまりいい印象ではない。後日現れた女性は彼の妹で、余命いくばくもない母親に、兄が会ってくれないと嘆く。一流のショコラティエになって帰って来た兄は変わってしまったのか。彼の店のチョコレートの詰め合わせは、全て素数でできていた。…

 近藤さんの作品は初めて読みました。加納朋子さんとごっちゃになって読んだ気になってたんですが、どうも読んでませんね。お二人とも似たような時期に知ったものですから、こんがらがってしまって。
 …この作家さんの文章、「、」が多くて気になる…;
 とは言え面白かったです。気軽にするする読めました。
 連想したのは槇村さとる著『美味しい関係』。どちらももうとにかく美味しそう、ってことで(笑)。何度も出てくるヴァン・ショー(スパイスとフルーツの香りを利かせたホット・ワイン)、飲んでみたいなぁ。…と言いつつ私、アルコール弱いんですけど。メインもいいけど、デセールもいいなぁ。
 ゲストはほとんどお客様、登場人物の背景ってほとんど紹介されないされてない、ってのは今時珍しいかも。それだけ陰のある人物がいない、ってことかもしれませんが、この頃の連作短編ってメインの登場人物に何か大きな隠し事(?)があって、それが徐々に明らかになって行く、的なパターンが多い気がしてたので。
 実は、タルト・タタンは何度か作ったことがあります。味はともかく、「作る」だけならそんな難しいお菓子ではありませんでした。何しろフランス版「ママの手作りお菓子」ですので。…あ、でもパイシートは冷凍のものを使ったなぁ; りんごの煮汁がパイに染みて美味しかったです。プロの味も食べてみたいなぁ。