読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

仏果を得ず 三浦しをん著 双葉社 2007年

 文楽を舞台にした連作短編集。

 健は師匠の人間国宝・笹本銀大夫に、鷺澤兎一郎と組むよう言われてしまった。兎一郎は義太夫三味線弾きの若手では随一の実力者、だが無口で愛想のかけらもない変人。チームワークもどこへやら、今日も一人食堂でプリンを食べている。師匠の執り成しで何とか相稽古に漕ぎ着けたものの、兎一郎は本公演『菅原伝授手習の』「寺子屋の段」の出来に納得がいかず、健にもそちらを語らせるばかり、ちっとも『女殺油地獄』「河内屋内の段」が進まない。だが健の解釈に、兎一郎は健の相手を務めることを納得する。:『幕開き三番叟』
 小学生のミラちゃんを相手にすることで、『女殺油地獄』の与兵衛を理解する。:『女殺油地獄
 銀大夫の浮気のせいでおかみさんの福子との夫婦喧嘩に巻き込まれ、ミラの母・真智に一目ぼれする。:『日高川入相花王
 『ひらかな盛衰記』の樋口が理解できない健。それを軽々と演じる銀大夫に、妹・千早の死が知らされる。千早は兎一郎の祖母でもあった。:『ひらかな盛衰記』
 岡田真智が健のホテルに泊まり込んで来て、健はまさしく浮ついた状態。だが真智の本心が読めず、不安でもある。会いたい気持ちを乗せて『本朝廿四孝』の「奥庭狐火の段」を三長老の前で語った健は、『仮名手本忠臣蔵』「早野勘平腹切の段」に抜擢される。:『本朝廿四孝』
 『仮名手本忠臣蔵』の稽古が進まない健。業を煮やした銀大夫は健に、もう一人の人間国宝・砂大夫に稽古を付けて貰って来い、と命令する。砂大夫は兎一郎の以前のパートナー・月大夫とも因縁があり、兎一郎はわだかまりを捨て切れていなかった。:『心中天の網島』
 朝駆けしてようやく砂大夫に稽古をつけて貰えた健。節回しは覚えたものの今一つ勘平がつかめない。健はミラちゃんに告白を受けて真智との三角関係に悩み、月大夫の床本も参考に、勘平と自分の共通点を見出す。:『妹背山婦女庭訓』
 健は12月の公演に、真智とミラを呼んだ。招待したのは楽日なのに、ミラはその前日から行方不明になってしまう。不安なまま舞台に上がる健。だがその揺らぎすら、健は語りの糧とする。:『仮名手本忠臣蔵』…
 
 勝田文さんの表紙のイラストが可愛らしい一冊。
 装丁が凝ってていい。目次が幕引きみたいな上観音開きになっていて、表紙をめくってちょっとびっくりしました。愛して装丁して貰ってる本だなぁ、と嬉しくなってしまった。
 何か、素直に面白かったです。相変わらず、私の好みからするとちょっと粘度が高いですけど(笑)。
 だってこれ『ガラスの仮面』じゃん。というか、演劇漫画みたいな感じ。「役を掴んだ」ってマヤちゃんの眼が白くなってる、あの快感。昔も今も、人の本質はそうそうは変わらない。愚かで愛おしい。自分を通じて義太夫を語ることで悟って行く。舞台の緊迫感、一体感。雰囲気が熱く盛り上がって行く描写がとにかく上手い。一気に読めました。
 三浦さん、本当に文楽好きなんですね~。この面白さを伝えたい、ってのがひしひし感じられました。本職の方からしたらこんなに簡単に掴めるもんじゃないんだよ、とかあるんでしょうけど、入門書としたら十分じゃないかしら。中学や高校レベルの演劇でさえ、自分がレベルアップしたのを感じた瞬間、ってのがあったよな、と遠い眼をしてしまいました。…ありゃ気持ちよかったもんなぁ。