読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

おそろし 三島屋変調百物語事始  宮部みゆき著  角川書店  2008年

 連作短編集。
 ネタばれになるかな、すみません;

 第一話 曼珠沙華
 袋物屋の三島屋に、川崎宿の旅籠の娘・おちかが奉公にあがった。おちかは三島屋主人・伊兵衛の姪に当たる。ある日、急な用事で出かかけた伊兵衛夫婦の代わりに来客の相手をしたおちかは、その客・松田屋藤兵衛が庭の曼珠沙華を見て具合を悪くしたことから、藤兵衛のの過去の重荷を聞くことになる。
 建具職人だった兄は、仕事仲間の大工を勢いあまって殺してしまった。八丈島に遠島になった兄が帰って来るまでの15年、残された藤兵衛たち弟妹は肩身の狭い思いをする。いかに愛していた兄でも何度も奉公先に疎まれるような目に会えば、兄の帰還を喜ぶことはできない。兄との再会を先延ばしにしているうちに、藤兵衛は兄の死を願うようになってしまう。やがて兄は、迷惑をかけたと詫びながら、首をくくって死んでしまう。兄の死に様を知った藤兵衛は、曼珠沙華に人の顔を見るようになる。

 第二話 凶宅
 藤兵衛の話を聞いたと言うおちかの様子を見て、伊兵衛はおちかに、色々な人が語る不思議な物語を聞いて己の心に決着をつける縁とするよう話を付ける。
 最初に来たのは越後屋のたかと名乗る30前の女。幼い頃住んだ白い土蔵のある屋敷の話をする。
 錠前直しを生業とする父親・辰二郎がある日、南京錠を持ち帰って来た。豪華な着物を虫干ししていた屋敷で預かったものだと言う。失くした鍵を作ってくれと言う依頼を、辰二郎は師匠の清六に相談する。錠前は清六の手に噛み付き、錠前を見た孫の清太郎は高熱を出した。不吉なものを感じ取った清六は錠前を焼却する。そのことを屋敷に告げに行った辰二郎は、代わりに家族ともども一年間、この屋敷に住んでくれと言われる。清六や女房の反対を押し切って屋敷に移り住む辰二郎。一年後、そこにいたのはおたか一人だった。

 第三話 邪恋
 藤兵衛、おたかの話を聞いたおちかは、女中のおしまに実家で起きた出来事を話す。
 冬の寒い日、崖下で拾われた男の子・松太郎は、喜一やおちかと兄弟のように育つ。年頃になったおちかに起きた縁談は、同じ旅籠屋を営む波之家の道楽息子・良助とのもの。おちかを不良息子にあてがわれてはたまらないと、喜一たちは縁談を拒絶。相手を悪し様に罵る当てつけに、松太郎の名を出す。やがて良助が本当に改心し、再びおちかとの縁談が上がった時、松太郎は良助を殺してしまった。

 第四話 魔鏡
 おちかの過去を聞いたおしまが、以前勤めていた仕立屋の娘・お福を紹介する。
 お福より7つ年上の姉・お彩は、病弱な体が災いして、小さい頃は江戸には住めなかった。気候の良い大磯で十年を過ごし、ようやく帰って来たお彩は、美しく気立ても良く、お福には憧れの存在だった。だがお彩はもう一人の兄弟・弟の市太郎と道ならぬ恋に落ちる。気付いた周囲によって引き裂かれたがお彩は自害し、市太郎は別の娘・お吉と夫婦になる。市太郎はお吉にお彩の手鏡を渡し、お吉の仕草ははだんだんお彩に似て来るようだ。

 最終話 家鳴り
 喜一がおちかを訪ねて来た。喜一はこの頃、松太郎の姿を見ると言う。何かに呼ばれていると語っているらしい。不安に襲われるおちか。案の定、越後屋の清太郎が三島屋を訪れ、おたかがおちかの名と、松太郎の名を口走っていると言う。おちかは座敷牢に閉じ込められているおたかに会い、おたかの瞳の中の屋敷を訪れる。そこには小さいおたかや藤兵衛、松太郎、清六やお彩、市太郎にお吉もいた。…

 宮部さん、はずれないなぁ。相変わらず読み易くて面白い。
 おちかを始めとする人達はみんな心に傷を負っている。自分の心の醜さに自分で傷ついていたりするのが辛い。ここですっきり割り切ってたら、それは宮部さんの作品の主人公ではありませんね(苦笑;)。
 人の心の話から不思議の方にお話がシフトして行って、最後に全てまとまる。今まで出て来た登場人物はじめ、屋敷まで救うのが心地いい。不可解な番頭さんが出て来てますが、この人がシリーズ通してのキーパーソンになるんでしょうか。
 上手いなぁ、としみじみ思いました。やっぱり好きだわ。