読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

レインツリーの国 World of delight  有川浩著  新潮社  2006年

 『図書館内乱』とのコラボ企画本。
 ネタばれ、になるのかな、とりあえずあります、すみません; 

 向坂伸行はふと思いついて、とある本の名前を検索してみた。中学生の頃読んでいたライトノベル、はちゃめちゃで痛快なSFアクション学園小説『フェアリーゲーム』。その終わり方があまりにも当時の自分には衝撃的で、社会人になった今でもトラウマになってしまっている本。そこで伸行は、その本のラストについて熱く語っているブログ「レインツリーの国」に突き当たる。
 管理人は「ひとみ」。迷いながらも伸行は彼女にメールを送り、自分もあのラストに戸惑い、でも多くを考えたことを語る。当時傍に同じ本を読んでいた人がいなくて、10年経った今になって「ひとみ」の感想が読めて嬉しかったことも。相手は見知らぬ年頃の女性、気味悪がられても仕方ないと返事は期待していなかったが、「ひとみ」から返信メールが届く。そして、彼女とのメール交換が始まった。
 自分と似ていて少し違う感性、それを的確に伝えてくる誠実な文章。打って響くようなやり取りを重ねて行くうち、伸行は「ひとみ」に会いたい、と切実に思うようになる。勇気を振り絞って送った「会ってみたい」のメールを、しかし「ひとみ」は拒絶する。
 かき口説いてかき口説いて、ようやく約束を取り付ける伸行。実際会ってみると、ひとみは楽しい相手だった。だが微妙に盛り上がらない、居心地が悪い。食事の好みも主張できないほど大人しいかと思いきや、映画の好みは頑強に主張し譲らない。重量オーバーのブザーが鳴っているのにエレベーターから降りようとしないひとみの態度を見て、伸行は思わずカッとして怒鳴りつけてしまう。彼女は告白する、自分は聴覚障害者だと。
 後悔し、でも彼女を責める気持ちも捨てられない伸行。「何故教えておいてくれなかったんだ」正直な気持ちを書いたメールに、彼女は「やはり会うのではなかった」と返事を寄越す。仲直りするためにケンカしよう、伸行は彼女にアプローチを続け、二度目のデートにこぎつける。
 相変わらず二人のテンションは会った時の方が盛り下がる。ひとみの劣等感、トラウマ、伸行の過去をぶつけ合い、二人の距離は縮まったり遠くなったり。決定的かと思われた別れの後、伸行はひとみの、補聴器を隠す長い髪を切ることを提案。ブログ『レインツリーの国』を一旦休止してまで悩んだひとみは、伸行の言葉を受け入れる。
 本名や住所を初めて交換して、そして多分、恋は叶った。この先続くには難しいかもしれないけれど、今だけは。…
 
 こんな恋ならしてもいいわね。…と何故か上から目線で言ってみる(笑)。
 何てったって「だって俺がかわいくしたからな」ですよ、この天性の女たらし!(笑)
 『図書館内乱』を先に読んでいたせいで、ひとみが聴覚障害者であると言う予備知識が自分にあったことが惜しい。作者には多分、それはOKだったことなんでしょうが、伸行と一緒にデートの後でそのことに気付いてみたかった。肩入れ度がもっと違っていた筈。
 本だの映画だの舞台だの、持った感想を熱く語り合える相手がいる、ってのは本当に嬉しいですよね。忘れられない本なら尚更、だから伸行とひとみが惹かれあったのは凄くよく解る。伸行が返事を貰って思わずにやけてしまった辺りも。
 二塁打ナナコ=ミサコさんが後半効いてましたね、こんないい子だとは思わなかった。ある意味オトコマエ!(笑)。
 私の大学の図書館は当時まだ貸出カード方式だったのですが(途中でバーコードに変わりました)、私が読みたいと思った本を必ずと言っていいほど先に借りている方がいて、「この人と話したい…!」と強く思ったことを思い出しました。結局私は行動を起こしませんでしたが、連絡取るべきだったかなぁ、と今でも思うことがあります。…ちなみに、私の母校は女子大でした。…ろまんちっくな話にならねぇなぁ(笑)。
 ラストの参考文献にあった笹本祐一著『妖精作戦』から始まる4冊が、『フェアリーゲーム』の元ネタなんでしょうか。これも読んでみたくなりました。
 …あ、でも前言撤回。こんな恋、かなりしんどそうだわ(←だめじゃん、私;)。