読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

終末のフール 伊坂幸太郎著 集英社 2006年

 三年後、隕石が落ちて来て人類が滅亡してしまう、と言う世界。五年前の発表以来、あちこちで起きた暴動がようやく一段落した仙台の「ヒルズタウン」の住人を描いた短編集。
 多少のネタばれあります、すみません;

 『終末のフール』
 405号室、住人は香取夫婦。十年前、長男和也が自殺して以来音信不通だった娘の康子が帰って来る、と言う。連絡が来て以来、「私」は落ち着かない。康子は和也の死を、父親のせいだと非難していた。…
 …こんな文句ばっかり言ってる旦那、イヤだなぁ。奥さん、よく我慢してるなぁ。…でもいそうなんだよなぁ、こんな人(笑)。

 『太陽のシール』
 301号室、すっかり子供を諦めていた桜庭富士夫と美咲の夫婦。隕石が落ちてくるまであと三年、と言うこの時期になって、美咲に子供が授かった。産むべきか、産まざるべきか。優柔不断な富士夫は悩む。…
 …これはもう泣きそうになりました(in 電車・笑)。富士夫くん、君の決断は間違ってないよ!

 『籠城のビール』
 509号室、元アナウンサー杉田玄白の家に押し入った虎一と辰二の兄弟。妹の暁子を自殺で喪って以来、二人はその原因となったマスコミ関係者を憎んでいた。押し込み強盗に立て籠もられた被害者だったにもかかわらず、マスコミの標的にされ苦しめられた暁子。兄二人は、中でも杉田を許すことはできないと、小惑星に殺される前に杉田をこの手で殺そうと決意する。

 『冬眠のガール』
301号室。父親の残した書物を全部読みきった田口美智は、次の目標を「恋人を見つける」に決めて、高校時代の同級生を訪ねる。…
 …これ、最後に出てくる「体をくの字に曲げて倒れてる人」が誰か、他の章で出てくるかと思ってたのに。

 『鋼鉄のウール』
 6階の住人、「ぼく」の父親はすっかり怯えて無気力になり、部屋に引きこもっている。そんな父を母も咎めない。ぼくは5年ぶりにキックボクシングのジムに通う。こんなに世間が荒んでいるのに、黙々と練習を続けている王者・苗場さんに憧れて。

 『天体のヨール』
 矢部の元に掛かってきた電話は、大学の同級生で天文オタクの二ノ宮からだった。五年前、妻の千鶴を亡くしたのは自分のせいだと思って生きてきた矢部は、今日復讐を果たし、自殺しようとしていた。…
 …二ノ宮くん、いいなぁ。隕石の落下をこれだけ前向きに捕えられていたらいい。

 『演劇のオール』
 三階に住む、役者を目指していた「わたし」倫理子は今、あちこちで代役を演じている。息子夫婦を心中でなくした早乙女のお祖母ちゃん相手には孫、二階の両親を亡くした少女・亜美相手には姉、母親とペットの帰りを待っている幼い兄妹相手にはお母さん、同じ三階に住んでいる一郎相手には恋人、近所の酒屋の犬相手には飼い主の役を。…
 …これもいい話だなぁ。

 『深海のポール』
 501号室、渡部一家。夫の修はレンタルビデオの店長をしている。山形から引き取った父親は、マンションの屋上に櫓を組んで、隕石の落下で起こる大洪水の際、そこから水に沈む世界を見てやる、と言う。妻の華子は何だか変な集まりに参加しているらしい。…

 これ、各章の主人公の苗字があまり出てこないんですね。粗筋書こうとしてちょっと苦労しました(笑)。
 こんな終末の荒んだ世界を描いているのに、どうしてこんなに読後感いいんだろう。少しずつ重なる登場人物が嬉しい。
 これまでの伊坂ワールドとは、どういう風に繋がるんでしょうね。隕石、軌道から逸れてくれたらいいんだけど。