読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

スローモーション 佐藤多佳子著 偕成社 1993年

 主人公は柿本千佐、15歳。母親の違うニイちゃん・一平(22歳)は傷害事件を起こしたり、バイクで事故ったりして、以来、リハビリも働きもせずダラダラしている。おかげで厳格な父親はいつもピリピリ。千佐への締め付けも厳しくなって、とても迷惑。
 水泳部でも一緒のクラスメイト・及川周子は背が低くて赤っぽい猫っ毛で、父親が人を殺して服役中という噂がある。本人は周囲に煩わされることなく無表情、無反応。どんな攻撃も無効にするほどの。動きはあくまでスローモーション。
 ニイちゃんと父さんが喧嘩して、ニイちゃんは家を出て行ってしまった。連絡もつかず心配していたら、何と及川の家に転がり込んでいたことが判る。何時の間にやら、二人はつきあっていたのだ。それが切っ掛けで、千佐は及川周子と一緒に行動するようになる。千佐の行動もスローモーション。体験する及川の世界。及川周子はニイちゃんと暮らして、段々まともになってきた。風邪を引いて学校を休んで、そのまま登校するのを止めてしまった。
 担任教師や親戚の伯父さんやら、及川の家にやってくる。三人で逃げようとするが、ニイちゃんは事故の後遺症で走れない。その日、逃げおおせた千佐と及川はずっと待っていたのに、ニイちゃんは帰って来ない。結局、酔っ払って自宅にいた。
 及川は伯父さんの家に戻っていった。もう連絡はつかない。ニイちゃんは金を貯めて、病院へ行くと言い出した。
 「マッポに追われても、逃げれない」。――ニイちゃんは涼しい顔で付け加えた。…

 うん、やっぱりこの人の作品好きだわ。
 佐藤さんの児童書の作品は今まで手を出してなかったのですが、読んで正解。出会えて嬉しい。
 不良と呼ばれるようなタイプじゃないんだけど、ちょっと尖った「変わった子」の傍に寄り添うよう、心を追いかける。及川周子がゆっくり行動する理由が判明するあたり、15,6歳が思い詰めて出した結論が胸に苦しい。
 何気ない表現に、「あ、そうだね」って思い当たることが多い。「ゲタゲタ笑う」ことを「ストレスを周囲の人に押しつけるみたいにヒステリックで傲慢」と書く。及川に対して攻撃を仕掛けた少女を「ちゃんと“一般大衆”じゃん」「いつだってヤル側にいる自信がある」と分析する。「悪口大好きだけど、時々、ヤんなる」って、思い当たる人多いんじゃないかなぁ。
 「このコ、好きだけど」と言われて、及川の瞳がしみじみと輝く。ニイちゃん、ちゃんとリハビリして、及川迎えに行って欲しいなぁ。ゲラゲラ笑うしかなかったニイちゃんのこと、きっと及川分かってると思うから。及川の瞳を、またしみじみと輝かせて欲しいです。