読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

顔 FACE 横山秀夫著 徳間書店 2002年

 婦警・平野瑞穂を主人公とした連作短編集。

魔女狩り
 平野瑞穂巡査は県警本部秘書課広報公聴係勤務の23歳。以前は鑑識課の機動鑑識員として目撃証言を元に似顔絵を描いていたが、上司から似顔絵の改竄を命じられ動揺、失踪。半年間の休職の後、リハビリ異動になっていた。
 先の総選挙を巡る現金買収事件で、J新聞の風間記者が次々に特ダネをものにしている。情報を洩らしている刑事は誰か。瑞穂もらしくもなく、J新聞の若手女性記者・浅川久美子やR新聞の大城冬美に近づいて、情報収集を試みる。捜査員を署内に閉じ込めるまでしても洩れた捜査内容に、瑞穂はネタ元の正体に気が付く。男社会である警察に勤める女ならではの視点から。
 
『決別の春』
 署内で放火が続いている。捜査一課犯罪被害者支援対策室『なんでも相談テレホン』の電話相談員に配転になった瑞穂に、しおりと名乗る若い女性から〈火が怖い〉〈きっと私は焼き殺される〉と電話が入る。小さい頃放火で両親を亡くしたと言うしおり。しかも目撃した犯人は叔父だった。叔父はもう仮出獄している可能性が高い。瑞穂が似顔絵を描く仕事をしていた、と聞いてしおりは叔父を描いて欲しい、と頼む。その顔は何故かとても優しげだった。

『疑惑のデッサン』
 瑞穂の後任で似顔絵を描いている婦警・三浦真奈美。残念ながら、彼女の技量は拙い。真奈美自身も自覚していて、瑞穂に複雑な感情を持っている。ある真夏日に起きた高架下の放置自転車に関する喧嘩殺人事件で、真奈美は見事な似顔絵を描き上げた。瑞穂はその出来の良さに、また自分と同じ様に絵を改竄させたのではないかと不審を抱く。だが、真奈美は瑞穂に、「悪いことはしていない」と言い切る。
 …できすぎた先輩なり同僚なりがいると、それはそれで大変だよね。『彩雲国物語』でもそれ思ったなぁ。

『共犯者』
 銀行強盗訓練の最中、別の銀行が襲われた。そのあまりのタイミングのよさに、情報漏れが疑われる。訓練を手伝っていた瑞穂も尋問を受け、同室の林純子やその恋人にまで波紋が及ぶ。瑞穂は訓練直前、銀行の前にいた老人と赤ん坊を連れた若い女性を怪しみ、二人を捜す。

『心の銃口
 婦人警官・南田安奈の拳銃が盗まれた。安奈は側頭部を殴られ、意識不明の重態。犯人を目撃したと言う小学生に翻弄されたりしたが、ようやく意識を取り戻した安奈の証言により、瑞穂の手で似顔絵が描かれる。寄せられた情報から車を飛ばす瑞穂と箕田刑事。箕田が飛び込んだアパートには、警察マニアの女・鈴木真寿美がいた。瑞穂を組し易しと見て馬鹿にする真寿美。瑞穂が撃たれ、箕田が真寿美を撃つ。瑞穂はその裏に隠れた真実に気付く。…

 面白かったです。警察という男社会で踏ん張る瑞穂さん、本当に出来すぎ。これは男性作家ならではの造形、って気もしないでもないですが(笑)。ミステリとしても楽しかった。横山さん、上手いなぁ。