読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

待ってる 橘屋草子  あさのあつこ著  講談社  2009年

 料理茶屋・橘屋にまつわる人々を描いたあさのあつこの時代小説。連作短編集。

 待ってる
 おふくは十二の歳まで、下駄職人の父親と働き者の母親と妹のおかよと暮らしていた。父親は病がちで職を失い、おふくは料理茶屋『橘屋』に奉公に出る。年が近くて噂好きのお吉、主人の妾の噂のある仲居頭お多代、通い女中のおみつ。懸命に働きながら、薮入りの家族に会える日を待つおふく。だがある日、店の前に母親の姿を見たのを最後に、家族はおふくの前から姿を消してしまった。

 小さな背中
 おみつの住む長屋の隣に住むお香は、娘のおしのと暮らしている。男が出来て以来、お香がおしのに辛く当るのを見て、おみつは気が気ではない。おみつは事故で亡くしてしまった娘おつるをおしのと重ね合わせ、おしのを引き取ることを決意する。

 仄明り
 お敬は錺職人の林蔵と、駆け落ち同然で一緒になった。幸せに暮らしていたのに、林蔵は体を悪くして日々の糧にも苦しむようになった。薬代に困っているお敬の前に、かつての許婚文之介が現れる。

 残雪のころに
 おそのは十三になる前から『橘屋』に奉公に出ている。仲居としてより女としてのし上がろうするおその。仲居頭のお多代に窘められた矢先、おそのは幼馴染の弐吉と出会う。経師職人に弟子入りしていた弐吉は、おそのに甘い言葉を囁く。

 桜、時雨れる
 三太は右足が不自由だった。八つの歳に荷馬車に轢かれ、多額の治療費を受け取ったために父親は働かなくなり、母親はそんな父親に見切りをつけてしまった。母親が働いていた橘屋を訪ねる父と三太。三太はそこで料理人の仕事に惹かれ、酒毒に侵された父親を邪魔に思うようになる。

 雀色時の風
 幼馴染の正次がおふくを訪ねて来た。行方不明だったおふくの母親を見かけたと言う。そこにはすっかり幸せそうな母親と妹の姿があった。もう待っていても母親は迎えに来ない、とおふくは悟る。

 残り葉
 お多代が病魔に襲われた。もう随分前から、お多代は自分の寿命を見据えていた。お多代は自分の後釜としておふくを育てる。おふくは一生を掛ける遣り甲斐を感じ、正次の迎えも拒絶する。…

 面白かったなぁ。こんな言い方は失礼ですが、予想以上に面白かった。
 お話自体はそんなに新鮮味のあるものではないのですが、どれもしみじみと染み入ってくる。ままならない思いや行動を、諦めるのではなく受け入れる。そこから違う道筋を選ぶ潔さが心地よい。
 登場人物が饒舌なのが少々気になりましたが、それ故に分かり易いというのも確か。真面目にこつこつ生きて行けば報われる、という話はやはり気持ちが休まります。