読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

孤宿の人 上下 宮部みゆき著 新人物往来社 2005年

 ネタばれするような話ではないのですが、かなり後半まで内容書いてます、すみません;

 徳川家斉の時代。
 四国讃岐・丸海藩の藩医「匙」井上家の娘・琴江が毒殺された。殺したのは梶原家の美祢。折しも丸海藩は、江戸からの流刑人・元勘定奉行船井加賀守守利を迎えるよう命じられたばかり、何か粗相があっては藩お取り潰しにもなりかねない。名門梶原家の娘が咎められる事はなく、事件は病死で片付けられる。だが、井上家で下働きをしていた幼女・ほうは美祢を見て逆上、美祢を責め立てる。井上家にはいられなくなり、一時期は引手見習いの娘・宇佐と共に暮らすが、廻りまわって流人の屋敷の下働きをすることになったほう。その屋敷はこの地の守り神・日高様の禰宜だった浅木家が、15年前流行病に襲われた時に隔離場所として建てられた物。元々不吉な噂がある所に、自分の妻と子供を毒殺、配下の者を斬って罪に問われた加賀様が入った事により、平和だった丸海藩に不穏な空気が立ち込める。加賀様は悪鬼、悪霊の類ではないのか…? 暑気当りや食中毒、雷害も全て加賀様の所為と風聞が流れる。荒む人心。一方、ほうは加賀様から手習いや算盤を習っていた。とても鬼や悪霊には思えない。やがて、小さな諍いから、町に火の手が上がる。加賀様はほうに、屋敷から逃げるよう命じる。…

 …出だし、ほうの境遇のやりきれなさに、なかなか読み進められませんでした。でも、ほうが加賀様の屋敷に奉公することになった辺りからぐんぐん読むスピード上がりました。いずれこの二人の心の交流が描かれるだろう、きっと救いのない話にはなるまい。…しかし。
 …こう来たかぁ。
 宇佐にしろ琴江にほのかに思いを寄せていた渡部一馬にしろ、大きな力に捻じ伏せられて従ってしまう。それは上部の思惑だったり、固定観念だったり。読んでるこちらも結構悔しい。数々の不審を胸に秘めきれず、暴走する渡部。素朴な町の人々の思いはたわめられ、一気に噴出する。
 最後はもうぼろぼろ泣きました。「今日からおまえは、宝のほうだ」「加賀殿に賜った、おまえの名前だ」。――泣くしかないやん;;