読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

五辮の椿 山本周五郎著 新潮文庫 1964年

 初出は1959年。ネタばれあります、すみません。
 この記事は「時代もの、大好き」
        →http://blogs.yahoo.co.jp/bones_the_moon/19359971.html
と言う企画に参加して書いています。

 天保五年一月十二日、薬種屋むさし屋の寮が焼失。焼け跡からは三人の死体、主人喜兵衛とその妻おその、娘おしののものと判断された。だが、おしのは生きていた。瀕死の床にある労咳の父を見舞いもせず男と遊び歩く母に絶望、お前は不義の娘だと言って恥じない上、真面目に働いてきた父を侮辱するおそのに、浮気相手の男もろとも火を放つ。おしのは父の残してくれた大金を使い、おそのと関係した五人の男に復讐し始める。浄瑠璃三味線奏者・岸沢蝶太夫、婦人科医・海野得石、香屋の放蕩息子・清一、おそのに便宜を図ってきた中村座の出方・佐吉。色仕掛けで誘った挙げ句、銀の簪で胸を一突き、枕元には父の好きだった山椿の花びら。おしのを怪しむ町方与力・青木が現れ、あと一人を急ぐおしのは喀血する。残る一人は自分の父親、「丸梅」の主人源次郎。おしのは源次郎に、自分の血を分けた娘がひと殺しだと胸に抱えながら生きて行け、と簪と山椿を置いていく。…

 山本周五郎は中高生の時に読み漁りました。理由は簡単、母の蔵書が家にあったから。全作品制覇した訳ではないのに、『赤ひげ診療譚』で何だか満足してしまい、池波正太郎や何かに移ってしまいました(そして本屋の友人から「おじさんの読むようなもの読んでるのね」とか言われてしまう・笑。そりゃそうだよなぁ、だって母の読書傾向ひきずってるんだから)。今回久しぶりに手に取るのに、少し勇気が要りました。あの時面白かった物が、今も面白いかしら。
 例えば映画『マイ・フェア・レディ』。昔はその衣装やストーリーにわくわくしたけれど、今はヒギンズ教授の傲慢さに腹が立つ。女の子の意志も尊重せず、自分の価値観を押しつける。ラスト、画面に向かって「お前、まずイライザに謝れよ!」と叫んだ過去を持ちます(笑)。山本周五郎作品で思い出すのはとにかく「耐える女」。かつて『柳橋物語』に滂沱の涙を流した私は、おじさん・おばさんが好んで読む「耐える」話に、「きーッ!」とはならないかしら。
 結論から言うと、面白かったんです。話の展開が速くて、文章も読みやすい。相手への罰は殺すことなのか、と言う疑問は主人公も途中から悩み始めるし。医者の海野の言い草なんか『愛の流刑地』に通じるものがあったぞ(笑!)(←すみません、うち日経新聞取ってるんです。…いつの時代の36歳・女だよ、って突っ込んでました・笑)。あの最後はどうだろう、とは少し思ったのですが、おしのさん、あのまま生きてたら快楽殺人に走りそうな雰囲気あったしなぁ。
 長い間読まれたり映像化されたりする作品にはちゃんとした力があるんだな、と改めて思いました。…でも「金盥」が出てくるのはおかしくないかなぁ(笑)。