読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

東京少年 小林信彦著 新潮社 2005年

 著者の自伝的小説。
 昭和19年8月、東京・両国にある和菓子屋の跡取り「ぼく」は〈集団疎開〉することになった。小学六年の「ぼく」と三年の弟は、埼玉県の名栗村に、同じ学校の生徒53人と疎開する。間断なく続く飢えや集団生活のストレスに、子供達は次第にすさみ、苛めや暴力が横行する。やがて3月10日の東京大空襲で家が無くなり、焼け出された両親と共に、「ぼく」と弟は新潟の親戚の家に〈個人疎開〉する。
 新潟で「ぼく」は中学に入り、終戦を経験する。一刻も早く東京に帰りたいが、父親はそれを拒絶。業を煮やした母は、青山の実家と相談して上京を決めてくる。昭和21年12月末、「ぼく」は東京に帰って来る。…

 本来、こういう太平洋戦争を題材にした作品は苦手で避けて来たのですが、この頃「そうも言ってられないかもなぁ…」と思えてきたので手に取りました。小林さんの作品だから、ってのも大きかったです。
 著者の記憶力にまず脱帽。それは妹尾河童さんの『少年H』でも思いました。この作品を書くために資料を改めて当たったのでしょうが、それにしてもすごい。あの時代、兵器マニアとは言え小学生の友人が「おかしい」と思った戦果をそのまま発表してしまうマスコミ、新聞の細かい嘘を看破していた「ぼく」、それでも実際負けた時には「正しい戦いのはずなのに負けることがあるのか」と混乱する。…著者が新聞を信用しないのもよく解る。
 終戦後は父親の情けなさが印象に残りました。「絶対無くならない」と思っていた家が焼けて、心が折れてしまったのも解るけどさぁ; お母さんの方が生活掛かってるし、邪魔なプライドがない分、しっかりしてましたね。