読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

雨上がり月霞む夜 西條奈加著 中央公論新社 2018年

 連作短編集。ネタばれになってる気がします、すみません;

 大坂堂島の紙問屋・嶋屋を営んでいた秋成は、町一帯を襲った火事によって店を失い幼なじみの雨月が結ぶ香具波志庵に居候することに。ところがその雨月、飄々とした性格ながら妖しを引き寄せる体質で、しだいに彼らの周りには、憎まれ口をたたく兎やら、成仏できぬ人の怨念やらが溢れ出す。さらにその先で待ち受けていたのは、世界の成り立ちを根本から変える驚くべき真実だった―――
 江戸怪異譚の傑作『雨月物語』に大胆な現代的解釈を試みた、珠玉の連作短篇集。       (帯文より)

 紅蓮白峯
先日、川で溺れて亡くなった紙問屋白峯屋の先代が亡霊になっているらしい。邪気に当てられて白峯屋に入れない雨月に代わり、霊力に縁のない秋成が訪ねてみた。白峯屋の宗吉は秋成の幼馴染、この間から小火が出たり家宝の皿が割れたり、おかしなことが続くという。宗吉の子供・諭吉も様子がおかしいとのこと、秋成が話を聞いてみると、諭吉は先代からとんでもないことを吹き込まれていた。

 菊女の約(ちぎり)
秋成の師、都賀庭鍾を訪ねた客人の名は支部左門は、「清い学問」を目指しているという。浮世に邪魔されない学問、だがそのために母や嫁に苦労を強いているらしい。雨月は、二人の女の死霊が近くにいる、と言う。

 浅時が宿
難波村の宮木は、21年も帰らぬ夫を待っているという。なのに見かけは20代のまま、言葉は古の和歌しか発せられない。やがて、彼女の元に夫の息子だ、と名乗る男がやってくる。夫はもう死んでいるらしい。

 夢応の金鯉
この世とあの世の境にいる僧侶から、自分の描いた鯉魚図を取り戻してほしい、と頼まれた雨月と秋成。言われるまま代官の屋敷を訪れると、すっかりやみ衰えた代官は奥の間で白い紙に幻を見ていた。

 修羅の時
浪速随一の知恵者、木村蒹葭堂の元にいた旅人 悠然。武家を隠居したと身の上を語る彼は、実の子に追われる立場でもあった。君主の後継ぎを殺した、という疑いを無実だと訴える悠然。その前に、秀次公の幻が現れる。

 磯良の来訪
何一つ欠点のない妻 磯良から逃げだし、遊女 お染と駆け落ちした昌太郎。お染を病で亡くし、元妻の亡霊に怯えるが、その身勝手さに秋成は疑問を抱く。

 邪性の隠
雨宿りで出逢った女の名は真砂、あまりの美しさは妖のものだった。秋成に問われ、真砂はかつての恋を語り始める。どんなに恋い慕っても、向こう岸に戻される甲斐のない男の話を。

 紺頭巾
秋成が一泊するよう誘った旅の僧には、角があった。執着した美童を亡くし、その血肉を喰った僧は鬼と化し、彷徨うようになったのだという。僧の迷いを解いた雨月は、だが自身の存在について秋成に語ることになる。

 幸福論
雨月は去ってしまった。自身の文才のなさを嘆く秋成に、真の才能と発破をかけて。雨月から後を託された子兎が見守る中、秋成は『雨月物語』を完成させる。…


 ああこれは、『雨月物語』の知識があったなら、もっと楽しめたんだろうな。残念なことに私は真の面白さを味わったとは言い難いのですが、でも面白かったです。子兎の遊戯は可愛かったし(笑)。
 雨月と秋成の友情譚、夢枕獏著『陰陽師』みたいな感じかしら、と思ったら最後でどんでん返しが来ましたね。もう一人の自分と相対する、語り合いながら作品を作って行く。客観性、みたいなことなのかなぁ。作家さんには備わってるものを、描いたのかもしれませんね。