読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

遺訓 佐藤賢一著 新潮社 2017年

 『新徴組』続編、になるのかな。

 命もいらず、名もいらず――西郷隆盛が、すべてを賭けてこの国に遺したかったものとは。
 西南戦争前夜。沖田総司の甥で、天然理心流の遣い手である沖田芳次郎は、西郷の身を案じた旧庄内藩の家老たちから彼の護衛を命じられる。卓越した剣の腕を振るう芳次郎だったが、西郷と過ごすうち、武力に勝る強さがあることを知る――。
 青年剣士の成長と挫折を描き、戦いの果てにある「武士の本懐」に迫る感動の時代長篇。
 武士とは志を有する人間のことだ。
 私を顧みることなく、天下を憂い、正義を貫き、そのために命を賭して戦う覚悟と、果敢に行動する力を持つ。
                                         (帯文より)

 明治九年。元新徴組の沖田芳次郎は元庄内藩中老 酒井玄蕃から、西郷隆盛の護衛を命じられる。その頃の西郷は征韓論を巡って意見が対立、二分した政府から退官して鹿児島に下野していた。
 元々外遊組との確執は大きく、大久保との仲も拗れていた。密偵も跋扈する中、西郷達内政組を何とか追い落とそうとする外遊組は、以前の仲間江藤新平もろくろく裁判を受けさせず処刑してしまう始末。現政府に言質を取られまいと西郷は息を潜めて潜伏しながらも、後裔のために私学校を設立、旧庄内藩を手本に新地開墾にも精を出す。
 芳次郎は酒井玄蕃に付き従って清国を訪問、酒井は清国の兵力を正確に読み取って政府に報告する。韓国、清国との開戦はそれで避けられたようなものだったが、有能であればあるほど政府は酒井玄蕃を恐れた。何度も手練れに命を狙われ、その度に玄蕃を護る芳次郎。やがて玄蕃はかねてからの病状が悪化し命を落とすが、芳次郎はそれが毒による暗殺だと気付き、悔恨の念に襲われる。
 玄蕃の言い残した言葉通り、西郷は守らねばならない。鹿児島で西郷の身辺警備に当たる芳次郎。新政府に反発し、熊本、福岡、山口と反乱が起こる中、西郷は起たない。だが政府の挑発に耐え兼ね、鹿児島の若者は蜂起してしまった。なし崩しに、西南の役は勃発した。
 共に起とうといきり立つ庄内。会津、北陸三県、北海道も東北も呼応するだろう。血気に逸る庄内藩を西郷は押しとどめる。ロシアに備えよ、外難に備えよ。今国力を減らす時ではない。恭順の証として武器を差し出す庄内。孤立する鹿児島に、待ってましたとばかりに政府軍が派遣される。切り込み部隊には、鹿児島や庄内出身者が集められていた。同郷者同士が戦う結果となった。…


 何なんだろうな、西郷隆盛の偉大さよりも「どうだ、酒井玄蕃って凄ぇだろ!?」って主張の方が印象に残ってる読後感(笑)。
 明治維新の頃の知識は本当になくてですね、ですから新鮮に楽しめました。大久保利通、本当にこんな理由で西郷隆盛と決裂したり酒井玄蕃を恐れたりしてたのか? 何と肝っ玉の小さい男だこと!
 いやいや、これはこれで一つの見方なんでしょうが、それでもこれでは暗殺されても仕方ないなぁと思ってしまった。『るろうに剣心』では瀬田宗次郎が実行犯てことになってましたが(笑)、こちらでは沖田芳次郎が関わってることになってましたね。
 冒険譚としての要素も入ってる感じ、気球に乗った暗殺者が出て来た時には「…それはありか??」「どこまで史実??」と戸惑ってしまいました。…あんなもの、すぐに動かせそうにはない気がするなぁ。
 庄内藩の今後はどうなったのか、ドイツ留学している藩主は結局出て来なかったし、芳次郎は生き残ったし、今後の展開もありそうな雰囲気です。