読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

私たちの星で 梨木香歩/師岡カリーマ・エルサムニー著 岩波書店 2017年

 端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類い稀なる文筆家。二人の対話はこの星を駆けめぐり……。
 『図書』の好評連載を単行本化。

 ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。
 端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話。
 世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。
                                        (出版社HPより)


 お二人の教養、経験、それに基づく見識や寛容さに圧倒される一冊。文章のなんと美しいこと!

 梨木さんの言う、自らの「日本はすごい」アピールに不安になる、という一節には私も「そう、そうなんだよ!」と激しく頷きました。ああいうのは他の人が言ってくれるからいいんであって、自分から言うのは意味がないというか、かっこ悪いというか。とか言いながら、丁度見ていたNHK杯、海外のフィギュアスケートの選手が「日本大好き!」と言ってくれるのを見て、嬉しいんだけど、何故こんなに好きになってくれるんだろう、と不思議に思ったりするんですが。
 自分(日本人)たちはそこまで自信を失っているのか、という逆説に至るのは、目から鱗でした。
 師岡さんのいう「翻訳の中毒性」ってのは、かなり高レベルにある人しか味わえないだろうなぁ(笑)。
 かつては「ムスリムの在り方にももっと多様性があった」こと、エジプトはちょっとした島国であること、オリーブ文化とバター文化の違い、アラブ人とユダヤ人との間にある暗黙の了解 etc. 
 特に、これはあとがきにあったことですが、聖書のマルタとマリア姉妹に対する一説。私もあのエピソードには違和感が拭えなかったのですが、師岡さんの返答「『私はパンと水でよいから、あなたもここにいらっしゃい』とイエスに言ってほしかった」には、本当、目から鱗!でした。そう、これが正解だわ。でもナイチンゲールの「一皿の料理なり!」にも笑いましたが。
 どの宗教でも、特に女性が幸せになるのは難しいのかも。幸せの定義にもよるけれど。
 師岡さんの著書も、読んでみたくなりました。