読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

「スーホの白い馬」の真実 モンゴル・中国・日本それぞれの姿 ミンガド・ボラグ著 風響社 2016年

 白い馬は射殺されたのではなかった!?
 小学校国語教科書にも登場する「スーホの白い馬」。子供たちに親しまれている「民話」の誕生秘話。モンゴルの馬頭琴起源伝説「フフー・ナムジル」や中国創作文学「馬頭琴」と対比しながら、経過と背景をたどり、馬を愛するモンゴル人の文化とモンゴル草原に憧れる日本人の心の歴史に触れる。       (出版社HPより)


 題名を見て、思わず手に取った一冊。いや、これは惹きが強いでしょう(笑)。
 著者はモンゴル人の研究者で、通訳や翻訳の他、馬頭琴奏者としても活躍されているのだとか。
 面白かったです。作者が『スーホの白い馬』を読んだ時の違和感を起点として、モンゴルの文化や歴史も紹介されていて。
 そもそもスーホが白い子馬に遭った時間帯が放牧民として不自然なこと、馬は絶対殺さないし、乗り手のいない馬の方が捕まえ易いこと、矢を抜いた後の処置がされていない、馬と狼は戦わないし、競馬大会が行われた時期もおかしい、「殿様」の描かれ方もモンゴル民の見方ではない、等々。絵本の草原が黄色で表現されていることの考察まで。
 原典が『中国民間故事選』からのもので既に改編されたものであること、その裏にほの見えるプロパガンダ。へえ、なるほど、と何度も思いました。
 今黄砂の原因として家畜の放牧を上げられているそうで(すみません、知りませんでした)、これは間違いであること、温暖化による凍土融解や「西部開発」によるものであることの方が大きいこと。牛や馬、羊に山羊、ラクダの草の食べ方まで書いてある詳しさには脱帽です。これ、モンゴル人には常識なのか!?
 モンゴルで伝えられている馬頭琴の伝説の中には、何だか日本の天女伝説にも似ているものもあって、妙に親近感を抱いたり。
 繰り返し何度か語られる「『スーホの白い馬』と言う作品を否定している訳ではない」という言葉に、作者の誠実さを感じます。それにしても、モンゴルの人が日本語でこの原稿を掛かれた訳ですよねぇ??
 …凄い。