読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

東京會舘とわたし 上 旧館 辻村深月著 毎日新聞出版 2016年

 連作短編集。

 海外ヴァイオリニストのコンサート、灯火管制下の結婚式、未知のカクテルを編み出すバーテンダー
 “會舘の人々”が織り成すドラマが、読者の心に灯をともす。
 大正十一年、丸の内に誕生した国際社交場・東京會舘。“建物の記憶”が今、甦る。     (帯文より)


 第一章 クライスラーの演奏会 大正十二年(1923年)五月四日
寺井承平は作家を目指して上京してきたものの、親の反対にあい、金沢に帰った。だがヴァイオリニスト クライスラーの演奏会が帝国劇場であると聞いて、いてもたってもいられずに再び上京する。帝国劇場は、できたばかりの東京會館と地下で繋がっているらしい。

 第二章 最後のお客様 昭和十五年(1940年)十一月三十日
佐山は、ボーイとして、東京會館開業以来勤めて来た。帝国ホテルから引き抜かれ、震災を乗り越えてきた佐山は、今日、数人の仲間と共に、大政翼賛会の事務局として東京會館を引き渡す。

 第三章 灯火管制の下で 昭和十九年(1944年)五月二十日
関谷静子は大政翼賛会が出て行ったあと、大東亜会館と名前を変えた東京會館で結婚式を挙げた。相手の顔もよくよく知らない不安、彼女の傍らに、花嫁の支度を手伝ってくれた女性 遠藤さんが付き添う。

 第四章 グッドモーニング、フィズ 昭和二十四年(1949年)四月十七日
戦後、東京會館はGHQに接収された。真面目な仕事ぶりが評価された桝野は、メイン・バーでバーテンダー見習いとして働くことになる。桝野はそこで、尊敬すべき先輩 今井や、オーナー ラフェンスバーガーと出会うことになる。

 第五章 しあわせな味の記憶 昭和三十九年(1964年)十二月二十日
東京會館での土産菓子開発にまつわるエピソード。菓子部門の部長を務めていた勝目は、当時の社長から「持ち帰りできる土産菓子」の開発を依頼された。クオリティを保つのは無理だ、という勝目を、事業部長の田中は説得する。仕事等で外食する機会の多い“お父さん”だけではない、奥さんや子供にも東京會館の味を伝えたい。やがて、勝目もその熱意に巻き込まれて行く。…


 浅学ながら、「東京會館」というものを初めて知りました。庶民にも本場の文化を、とか言いながら、絶対お高いだろう、とちょっと思いつつ(苦笑;)。
 でもこれはこれ、おハイソならではの温かみというかおっとり感、ゆったり感が心地いい。灯火管制下でも見られる余裕。いいものは絶対になくならない、という自信とそれに伴うゆとり、誠実さと努力。
 そうそう、「翼賛」という言葉に元々意味があった、ってのは初めて知りました。
 描かれる時間はどんどん下っていくようです。下巻に続きます。