読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ジュンのための6つの小曲 小谷田奈月著 新潮社 2014年

 連作短編集。

 学校では「アホジュン」と蔑まれ、友達はひとりもいない。でも、孤独じゃなかった。「音」があった。自転車があった。歌われることを待っている「歌」もあった。

 14歳。夏の少し前。同級生のトクが奏でるギターを聴いて、ジュンは、やっと気がつく。自分が楽器であることに。
 ギターと共に歌い出したジュンの姿に、その才能にトクは驚く。だがすぐに、ジュンにギターを盗まれかけて怒り心頭に達することになるのだが。
 トクを通じてジュンの世界は広がっていく。その昔バンドを組んでボーカリストを務めていたカン、偶然知り合ったけれど彼はトクの父親だった。吹奏楽部でトクの後輩のコマリはジュンを振り回し、結果的にトクも振り回す。吹奏楽部に外部講師として招かれたイオタはカンの古い友達で、ジュンの歌声を引きずり出し、しばらくの間ジュンを怯えさせることになる。トクとイオタと三人で、ギターとピアノとガムボールを使って、一緒に曲を作り上げるまで。
 ジュンの面倒を見ることで、トクはクラスメイトからのけ者扱いされてしまう。しかし、結局トクは、ジュンが受ける理不尽な仕打ちを黙って見過ごすことができない。トクは、音楽教師に歌のテストでジュンと組むことを決めつけられてしまったことを切っ掛けに、自分の曲とギターでジュンを歌わせることを思い付く。…
                                           (前半、帯文を引用しました)

 読み始めてすぐ、あ、これは苦手な分野の話かも、と思い当たりました。
 言ってしまっていいのか、これは多分、アスペルガーとか自閉症とか呼ばれる症状の子供を主人公にしたお話で、で、やっぱり、私はこういう話を読むと、「周囲の人大変だなぁ」という方向に気が向いて、物語そのものを存分に楽しむことが難しい。それをいうと、程度の差はあれ世の中の人はみんなそういう傾向はあるのかもしれませんが。特にこの作品の中に出て来る登場人物は、カンにしろイオタにしろ、コマリもその向きはありそうで、やっぱりトクは大変そう。あまり描かれませんが、ジュンの母親だって、きっと心落ち着くことない毎日を送っている筈。何しろジュンは、風邪をひいている時でさえおとなしく寝ていることもできないのだから。踏切の音を聞くたび、車の行きかう大きな道路に行きあうたび、あの子はふらふら飛び出して行ってないだろうか、と心配になっているだろう。だから能天気に、子供に自転車やらダウンベストやらを与える父親に腹も立つんだろうし。
 勿論最後にカタルシスはあるんですが。
 表紙の絵が素敵でした。これ、音楽の教科書を意識してますよね? ジュンの中で音がいっぱいになっているのがよく分かって。