読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

光圀伝 冲方丁著 角川書店 2012年

 なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。
 老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。
 生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。      (内容紹介より)


 読んでいる途中で『村上海賊の娘』が廻って来たために、2週間以上中断する羽目になりまして(苦笑;)。おかげで前半に出て来た光圀の友人連中が、後半ごっちゃになるという失態を犯しました。しかも最初に出て来た「殺された人物」が、登場して来た時にもしばらく気づかなかったというこのていたらく;; 記憶力の低下が憎い;;
 いや、でも面白かったです。水戸光圀の生涯なんて全然知りませんでしたし。文武両道に優れていたとか、兄を差し置いて世子になった苦悩とか。日本で初めてラーメンを食べたのが徳川光圀、ってのはどこかで聞いたことがあったのですが、こんな風な試食だったとは。宮本武蔵まで出て来るんだもんなぁ。
 淡々と進む文章はこの作家さんの特徴なのかな、哀しみが静かに打ち寄せて来ます。とてもうまく事が運んでいる状態でも、「いやこのままでは済むまい」と思わされてしまうフラグっぷり、あくまで和田竜さんの明るい文章と好対照。
 長く生きた者の宿命なんでどうしようもないんですが、次々に愛した者たちの死が迫って来る。年長者の恩師たちのみならず、随分年下の妻や友人、後継者や幼い頃から目をかけて育てていた家臣まで。奥さんの泰姫のビジュアルは何故か松岡茉優さんで浮かびました。…かなり大河ドラマ真田丸』に影響されてるな。
 後半、徳川綱吉がかなりなぼんくらに描かれていましたね。以前、池波正太郎さんがエッセイか語り下ろしか何かで「綱吉がそんなに愚かだったとは思わない」みたいなことを仰っていたのを読んだ覚えがあって(確か忠臣蔵大石内蔵助に関する話の中で出てきてたと思う)、その上よしながふみさんの『大奥』でブースターがかかった感じで、私も綱吉がそんなに馬鹿だというイメージはないんですが、でもそりゃそうか、何しろ犬公方だもんなぁ。トップが暗愚でもびくともしない支配体制が整った、という記述にはなるほど、と思いました。
 あんなにも可愛がっていた紋太夫の裏切りとも言える所業、でもその言い分を聞くと筋は通っている。そういう風にした自分の責任もあって、これはやりきれない。
 途中、安井算哲が登場したのにもびっくり。あら、お久しぶり、懐かしい(笑)。冲方さん、安井算哲のこと調べてて、光圀に辿り着いたのかしら。
 いやしかし、出版社のHPの、筋肉むきむきの登場人物紹介はどうかと思いましたけど。