読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

出世花 高田郁著 祥伝社文庫 2008年

 高田郁デビュー作。

出世花
 幼い娘お艶を連れて妻敵討ちの旅に出て六年、矢萩源九郎は無念の死を遂げた。しかし、源九郎の骸と魂は青泉寺の三昧聖の手によって清められ、安らかに浄土へ旅立つ。お艶は父親の遺言によってお縁と名を改め、寺で健やかに育つ。やがて内藤新宿一の和菓子屋桜花堂の養女に、と望まれるようになる。

落合蛍
 江戸では昨今、髪切り魔が横行している。被害にあった若い娘が、生末を悲観して自ら命を絶つこともしばしば、お縁改め正縁は湯灌師として方々から望まれるようになっていた。やがて、近所での評判の小町娘油屋のお紋も髪を切られた。お紋は下手人は岩吉だと証言する。岩吉は龕師、つまり棺職人。強面の大男で、無口で誤解され易いが決して悪い人間ではない。正縁はお紋の言葉の矛盾から、狂言ではないかと思い付く。

偽り時雨
 女郎のてまりが、青泉寺に乗り込んできた。仲間のおみのが虫の息で、噂の正縁に死後の湯灌を願っている、とのこと。てまりと共におみのの住む小屋に行き、正縁はそこで5日間、おみのと寝泊りすることになる。そのうち、てまりの馴染みの客、貸本屋の万蔵が変死を遂げた。何かの毒を飲まされたように見えるが何の毒か分からない。てまりが疑われる中、おみのは、男は媚薬と毒とを間違って飲んだのではないか、と正縁に訴える。

見送り坂暮色
 正縁の父を送ってくれた兄弟子正念を訪ねて、老人が来寺した。正念の母親が危篤状態で、一度会ってやってほしい、とのこと。正念は実はさる武家の跡取りだったが、母親との折り合いが悪く、いまは絶縁状態なのだとか。だが正縁には、正念がそんな酷薄な人柄とは思えない。母親が死に、結局その亡骸を正念が世話することになり、その扱い様を見ても、いかにも愛情が溢れている。正念は過去、母親の幸せを守るための決断をしていた。…


 第一話でほぼ正縁の話は完結していて、この頃の連作短編集としては珍しい作りだな、と思ってたら応募作だったようで。…さすが、完成度高いなぁ。まとまりすぎてて可愛げがないほど(苦笑;)。
 日本と言うのは凄い国だったんだなあ、と思うことしきりでした。江戸時代で既に、庶民に対して死に化粧を施す作業をする人がいたのか~。火で送って死体が動き出す、って表現も、言われてみればそうなんだけど、改めて記述されるとちょっと衝撃的でした。
 屍洗い、と下に見る人も、それを浄化と見る人もいる。私は正縁のようにはできないな、自分にできないことをしてくれている人に、せめて敬意を払うくらいのことはしたいものです。