読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

朝が来る 辻村深月著 文藝春秋 2015年

 ネタばれになってる気がします、すみません;
 
 「子どもを、返してほしいんです」親子三人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、だが、確かに息子の産みの母の名だった…。
 子を産めなかった者、子を手放さなければならなかった者、両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長篇。
                                                (内容紹介文より)

 予備知識として、不妊症の治療の模様を描いている、というのは聞いていまして。そういう話は読んでてこっちも何か痛くなってくるんだよなぁ、と思ってたら。…後半の方が何だかやりきれなかったなぁ。
 幼稚園に通う子供との絆、信頼関係が描かれた後、生みの親と称する女の登場と共に、栗原夫妻のこれまでが描かれます。不妊治療から養子を貰うまでのエピソード、で視点が変わって、その子供が生まれるまでのエピソード。これが辛い。
 厳しい母親に対する反発、学年一の男の子から選ばれたというハイ状態、他の子より、姉よりも一歩も二歩も先を行っているという優越感。子供を身籠っても「大変なことになった」という自覚が今一つ持てず、母親なんかへの違和感だけが膨らんでいく。…いやこれ、でも、妊娠した中学生の我が子に対して、母親の取る態度がこれなの? いくら自分にも仕事があるからって、娘に寄り添うことなく、一人で栃木から広島まで行かせて出産させるのが?? 私の考えが甘いんだろうか、そりゃ娘の心も離れるし、反抗心が先に立つよなぁ。
 実際にこういう母娘関係があるかどうか、あくまで小説の中の話とはいえ、取材なり何なりした上でのエピソードなんだろうなぁ。「一昔前なら、両親が自分の子供として戸籍に入れてたと思う」とは、私の母親の弁ですが。
 借金の保証人に仕立て上げられて、でも誰も「警察に相談しろ」みたいなアドバイスはくれない。逃げ出した彼女を売るような真似さえする。
 最後の最後で栗原佐都子に見つけられて、明るい兆しが見えてのラストはちょっとほっとしました。金銭的に用立てるとかはともかく、これでちゃんと不当な要求に対してどうすればいいのかは教えて貰えるだろうから。

 十年以上前の話ですが、ツアー旅行で一緒になった男性がいらっしゃいまして。ご本人はもう定年退職されていて、奥様は少し前に亡くされたばかり、漸く落ち着いた所でお友達に旅行に誘われたのだとか。娘さんが三人、上二人が結婚されている。この二人目の娘さんに、お子さんができないんだと仰っていました。
 結婚したばかりの頃は「いずれ子供が生まれたら…」みたいな話をよくしていたので、決して欲しくない、作らない訳ではないだろう。この頃は意識して話題にもしないようにしている。ただ、娘婿の顔を見ると、言ってやりたくて仕方がない。
 「この、下手くそがッ!」
 …技量の問題なのかしら、という突っ込みはさておいて(苦笑;)、これ、どこまで判って貰えるだろう、と思いながら書くのですが。
 私はこの言葉を聞いて、感動したのですよ。女性に対する風当たりがとにかく強いこういう現状の中で、このお父さんの、娘に対する絶対なる愛情に。
 夫が無精子症だったと判った時、佐都子に対して土下座をした義母、それに対して自分に原因があった場合だったら、母親はどんな対処をしたろう、と佐都子が考えた場面を読んで、ふと思い出しました。