読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

香水 ある人殺しの物語  パトリック・ジュースキント著/池内紀訳  1988年

 スイスでの出版は1985年。
 ネタばれしてます、すみません;

 1938年、悪臭ふんぷんたるパリの下町、魚の臓物にまみれて、ジャン=バティスト・グルヌイユは産み落とされた。若い母親はすぐに嬰児殺害未遂で処刑、グルヌイユは教会や孤児院を転々とする。暗闇でも迷わないほどの、人の性格を見抜くほどの鋭い嗅覚を持ちながら、自身は匂いを持たなかったことから、グルヌイユは本能的に人から忌まれた。
 なめし皮職人の弟子から始まってパリの匂いを満喫したグルヌイユは、ある日この世のものとは思えない美しい匂いに出会う。匂いの元は13、4歳の赤毛の少女。純粋無垢な美しい匂いに、グルヌイユは思わずその少女を殺して思うさま匂いを嗅ぐ。少女の匂いに満ち満ちて、グルヌイユは香水調合師になる決意をする。
 傾きかけた香水屋ジュゼッペ・バルディーニの門戸を叩いたグルヌイユは、生まれ持っての嗅覚と分析力で新しい香水を開発、パルディーニの店を繁盛させると共に、自身は植物から匂いの元の蒸留、圧縮技術を学び取る。
 それでも移し取れない匂いがある。ガラスの匂い、陶器の匂い、真鍮、砂利、土、水の匂い。絶望の中重病に罹り、瀕死の床で新しい匂いをとる方法を聞く。南方、グラースの町でその方法が発達しているらしい。グルヌイユは快癒の後、グラースを目指して出発する。
 パリを出て、しかしグルヌイユは人の匂いがないことの爽快感に気付く。そのまま人里離れた山奥で7年を過ごし、だがある日いきなり、自身の匂いがないことに耐えられなくなる。
 再び人里に降りるグルヌイユ。「人の匂い」を調合し、自分に振り掛けながらグラースへ辿り着き、グルヌイユはそこでパリの赤毛の少女以上の芳香に巡り合う。
 ただし、完璧な匂いになるにはあと2年かかる。グルヌイユの鼻はそこまで嗅ぎ取ってしまう。その2年でグルヌイユはグラースの香水調合師に弟子入りし、匂いを移し取る新たな技術を手に入れるとともに、人の心を自由に動かすような匂いの調合まで研究し始める。そして、いずれ手に入れる究極の娘の芳香を、永遠に留めて置くための方法も。
 近隣の美しい娘達が殺される事件が相次いだ。娘たちはいずれも全裸で、服を持ち去られ髪を刈り取られていた。匂いを取られるために殺された、と気づく人は勿論いる筈もなく、人々は恐怖に震える。選り抜きの美少女ばかりが24人も殺される顛末に、グルヌイユの目的の娘の父親は、次は自分の娘が狙われる、と悟った。
 町を逃げ出す少女とその父親。だがグルヌイユの鼻はそれを逃さず、とうとう目的を果たしてしまう。だが犯人はすぐ見つかった。公開処刑される筈だったグルヌイユは、少女たちから作り出した香水を使うことで人心を掴み、だがそれで余計に匂いのない自分へ、その匂いに酔えない自分への絶望を募らせ、そのまま町を出る。
 パリに戻り、その墓地で香水を一瓶使い切るグルヌイユ。その効果は絶大だった。夜中墓地に集まるならず者達が、グルヌイユを求めて肉片となるまで引き裂くほどに。…



 先日放送された『アメトーーク!』読書芸人の回で、又吉さんがお勧め本に入れていた一冊。そういえば以前新聞か何かで紹介されていて気になってた作品だった、とそれで思い出しまして、今回手に取りました。
 …面白かった。どこから思いつくんだ、こんな話。
 翻訳がとにかくうまい。するする読めました。連想したのは古川日出男著『アラビアの夜の種族』、作者は勿論、翻訳家さんもノって書いてるのがばりばりに伝わって来る。
 グロテスクでエロチックで不潔で、不快なのにやめられない。グルヌイユに関わられた人々は、皆不幸な結末を迎えているし。
 訳者あとがきによると、当時のパリは悪臭のため舌が腫れ上がったり、セーヌ川面なんかは酸欠状態で呼吸困難で絶命した人もいたとか。…私決して綺麗好きではないけれど、これは本当に酷いよなぁ。
 それにしても、これをお勧めの一冊に入れる勇気!(笑) いや、文句なく面白かったですけど。又吉さん、ありがとう。