読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

未来へ…… 新井素子著 角川春樹事務所 2014年

 20年前、大切な子供を授かって母になった私(若葉)は、沢山の笑顔と夫に囲まれて、幸せな日々が続くとおもっていた。だけどある事故が起こってしまう。そして2012年1月、成人式を迎えた“ひとり娘”の菜苗から、旦那と私は思わぬお願い事を告げられた。「かなちゃんのお仏壇を、だして」
 ――覚えていたのか、菜苗! あの日から、いままで家庭内で触れずに過ごしてきた菜苗の双子の姉・香苗の存在を。この日をきっかけに、母と娘の不思議な日々が幕を開ける……。
 新井素子が満を持して贈る、心温まるパラレルワールドファンタジー
                                       (出版社HPより)

 多賀内若葉は5歳の娘・香苗を亡くした。保育園の遠足バスが土砂災害にあったのだ。その日、熱を出した双子の妹・菜苗についていて、香苗に同伴しなかった若葉は、無意識に後追い自殺を考えるほど後悔し、見かねた夫は仏壇を封印することを決意する。
 以来、15年。成人式を迎えた菜苗は姉の存在を仄かに覚えていたことを両親に告げる。仏壇を再び出したその日から、若葉は不思議な夢を見はじめた。事故の起きた年の日々を、一日一日あまりにもリアルに追体験する夢。若葉は夢の中の過去の自分に、事故を知らせて香苗を参加させないようにしようと決意する。タイムリミットは遠足のある8月4日。あまりにも不審な態度に、娘の菜苗も眉を顰めていたが、やがて協力を申し出る。…


 病弱な菜苗にどうしても時間を費やしてしまった結果、香苗は「ななちゃんばっかりずるい」と怒りを爆発させ、遠足に参加して事故にあってしまう。家族に一人病弱な子がいて他の子が我慢を強いられる、って今回の構図に、何だか思い当る節がありまして。私には4歳上の兄がいるんですが、この兄がとにかくすぐ熱を出す、嘔吐する、という虚弱体質だったらしい。対して私は扁桃腺を真っ赤に腫らしても熱が出ない、という頑丈さ。でも、私にはあまりないがしろにされた、という覚えが無い。何だか不思議で母に聞いてみたら、「あんたの面倒はお祖父ちゃんがみててくれたから」。…祖父母との同居、というのも悪いことばかりではないようで。
 宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』でも似たような家庭環境の子供は出て来てたのに、自分と引き比べることはなかったなぁ。この臨在感が、新井さんの特徴でもある、ってことでしょうか。
 相変わらずの語り口、過去の自分へのメッセージを信じさせるため、周囲に信じさせるための手法が何だかやっぱりトリッキー。丁寧かもしれないけれどまどろっこしくもあって、「…さっさと話進めようや;」「先に結末読んじゃおうかなぁ」と多少ガラ悪く思ったりもしましたが。
 若葉の夢のことを菜苗が確かめるのに使った手法にはちょっと疑問を覚えつつ。だって若葉の記憶で合成された夢だとしたら、ほとんど不可能でも若葉が「覚えて」いたら可能じゃん、って方法で。その後普段の生活は変わらなくても、微妙に意識やら行動やら友人関係やらが変わって行く様子に、「でもこの過去が変わったら自分たちがいる世界も変わるのかしら」「それともパラレルワールドをもう一つ形成する、ってことだろうか」と首を捻りつつ読みました。
 妻の様子に無関心でまるで影が薄い父親のことをちゃんと庇うあたり、新井さん凄いなぁ。普通の家庭ならこれは旦那に愛想を尽かす、日々静かに絶望していく原因になってもおかしくないんですが。
 そうそう、「いやいやえん」が出てきたのには嬉しかったなぁ。私も何度も読みましたよ、懐かしい。
 新井さんの作品を読むと、自分の文章まで新井節に影響される気がするなぁ。