読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

楽園のカンヴァス 原田マハ著 新潮社 2012年

 ネタばれになってる気がします、すみません;

 早川織絵、43歳のシングルマザー。岡山倉敷の大原美術館で監視員として働いている。その彼女が、アンリ・ルソーの展覧会開催のための、交渉役に名指しされた。指名したのはニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーター ティム・ブラウン。織絵でなければ絵画の貸し出しはできないという。織絵はかつて、新進気鋭の美術評論家として、ティム・ブラウンと一枚の絵の真贋について議論を戦わしたことがあった。存在さえ疑われた幻の絵画コレクター、バイラーのコレクションの所蔵する一枚について。
 1983年、スイスのバーゼルに呼び出された二人は、そこでニューヨーク近代美術館所蔵ルソー作『夢』とそっくりのモチーフで描かれた油絵を見る。『夢をみた』と題されたその絵の圧倒的なインパクトに、一目で真作と直感するティム。だが、織絵は当時のルソーの貧困具合から、同時期二枚の絵を描く金銭的余裕は、ルソーにはなかったと主張する。持ち主の老バーゼルは、二人の講評のうち、より優れた者にこの作品の取り扱い権利をそっくり譲る、という。
 調査機関は七日間。その間に二人は、ルソーを主人公にした奇妙な手記を読まされる。当時のルソーの経済状況、洗濯女ヤドヴィカへの恋、ピカソとの交流。何の技巧もないルソーの絵に、ヤドヴィカの夫ジョゼフまで魅せられる様子。やがて、一つの疑惑が持ち上がる。もしかしたらその絵は、ピカソの未発表の作品の上に描かれたものかもしれない。場合によっては、ニューヨーク近代美術館所蔵の『夢』の下に、ブルー・ピカソがある可能性すらある。
 ティムの後ろにニューヨーク近代美術館がついているように、織絵はテート・ギャラリーやサザビーズと組んでいる。織絵自身はルソーの研究家だが、彼女の手に渡れば、表面のルソーは剥ぎ取られてしまうだろう。
 様々な思惑が交錯する中、ティムは自分が織絵に惹かれていることに気付いてしまう。やがて、彼らの出した結論とは。…

 
 この本に手を出したのは、TVで林修先生に美術史を講義する著者を見たから。同じ番組で扱っていた葉加瀬太郎さんの音楽史の時も思ったのですが、「美術」や「音楽」に特に興味がなくても、「史」がつくとどれも面白く思うんだよなぁ。
 いや、面白かったです。美術関係の知識はゼロに等しいので、新しい知識が増えるだけでも楽しい。30年前って、ルソーってそんなにも認められてなかったのかぁ、ちゃんと教科書に載ってた気はするんだけど。ティムが上の絵を守るために出した結論にも「あっ」と思いましたし、バイラーの正体にも、手記の著者にも驚きました。ここにまで仕掛けがあるとは。
 終わり方も優しくて未来がある感じで、読後感良かったです。感性が無い分は知識で面白がるしかないもんなぁ、とちょっと自分に苦笑してしまいましたけど;;