読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ジョーカー・ゲーム 柳広司著 角川書店 2008年

 第二次世界大戦前、「魔王」と徒名される結城中佐の作った諜報員養成所「D機関」で養成されたスパイたちの活動を描く連作短編集。

 ジョーカー・ゲーム
 親日家のアメリカ人技師ゴードンにスパイの容疑がかかった。D機関に、ゴードンの家宅捜索をして証拠を見つけ出すよう命令が下る。嫌われ者のD機関に、何故その辞令が下りたのか。証拠のマイクロフィルムはどこに隠されていたのか。

 幽霊 ゴースト
 英国総領事グラハムに、スパイ容疑がかかった。D機関の一期生、蒲生が探りを入れるが、グラハムがスパイだとは思えない。だが実際、彼の立ち寄る所は通信場所として利用されている。この英国紳士は本当にスパイなのか。

 ロビンソン
 英国でスパイであるという正体がばれて、伊沢和男は捕まってしまった。偽情報を送らされるわ自白剤まで打たれるわ、散々な目にあう伊沢。気になるのは彼が赴任前、結城中佐に餞別として贈られた本『ロビンソン・クルーソー』。伊沢にはそれが、意味もなく渡されたものとは思えなかった。

 魔都
 上海にて。及川大尉の自宅が爆破された。テロリストを突き止めろ、と言われた本間英司憲兵軍曹。爆弾など簡単に手に入る上海での捜査に途方に暮れる本間の前に、上海日日新聞の記者・塩塚が近づいて来た。彼は帝大の同級生・草薙を、ここで見かけたと言う。果たして、本間の前にも草薙の姿がちらついて来た。

 X X ダブル・クロス
 ドイツ人記者カール・シュナイダーが死んだ。恋人のアパートでの服毒、日本語の遺書まで残っているさまに自殺が疑われたが、その調査がD機関に依頼される。シュナイダーにはドイツとソヴィエトの二重スパイの容疑がかかっていた。…


 話題になっていた一冊。
 面白かったです。結構一気に読んでしまいました。
 連作短編と言いながら全体通して内容が繋がっているとかいう作品が多い中、もう本当にきっぱり連作短編集。結城中佐の正体(笑)も明らかにされないまま。いっそ潔くていいなぁ。
 二重、三重にある思惑。どこまで罠なのか、裏の裏を読んでその裏をさらにかく。TVシリーズの『スパイ大作戦』を思い出しました。罠にはめられているようで実は罠にかけている。
 「死んでお国のために」という時代に、自分のプライドのために仕事をこなす面々。これは読む分にはいいけど、本当に身近にこんな性格の人がいたら鼻持ちならないでしょうね(苦笑)。実際、最後には謎を解きながらもD機関にはついていけないと判断する軍人さんが出てくるし。
 柳さんの作風は、私の読む限り、二次創作的な、「学説」的な(©よしながふみ)作品が多かった気がします。元ネタを知ってたらもっと楽しめたんだろうな、って感じだったんですが、今回はもう、参考にした実在機関はあるにしても大ウソですよね。で、これだけ想像を膨らませてくれたら面白いとしかいいようがない。
 いやでもやっぱり、結城中佐がどんな過去を持つのかは気になる所ですね。