読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

サヴァイヴ 近藤史恵著 新潮社 2011年

 『サクリファイス』番外編。

 老ビブネンの腹の中
 パリで自転車競技にまるで理解のないインタビューを受けた後、白石誓は以前チームメイトだった選手の死の知らせを受ける。薬物の過剰摂取という死因に衝撃を受ける白石。彼の思いは、過酷なパリ・ルーベを走ることで吹っ切れる。

 スピードの果て
 自転車レーサーの伊庭は交差点で煽ってきたバイクを振り切り、だがその反動でバイクはワゴン車に突っ込んだ。目前での事故以来、伊庭はスピードを出すことに恐怖を感じるようになる。ロッカーが荒らされる嫌がらせも重なり、気が重いままヨーロッパ遠征に向かう伊庭。久しぶりに白石と共にレースを走り、伊庭はその恐怖をコントロールする術を覚える。

 プロトンの中の孤独
 石尾豪が新人だった頃。当時のエース・久米に睨まれ、チームで浮いていた石尾を、赤城は何かと世話を焼いてやるようになる。久米の嫌がらせは酷くなり、石尾の単独行動はますます顕著に、やがて赤城もその渦中に巻き込まれる。解決方法を模索する赤城に、石尾は自分のアシストをしてくれ、と切り出す。
 
 レミング
 石尾が単独エースになった頃。だが孤高の石尾は、人を気遣うことが不得手だった。エースの自覚を持て、という赤城。果たして石尾へのレース中のスタッフミスが重なるようになる。ただの偶然か、誰かの嫌がらせか。

 ゴールよりももっと遠く
 チーム・オッジに伊庭や白石が入ってきた頃。チームの、九字ヶ岳ワンデーレースへの参加が取り消された。どうも新興のライバルチームが、八百長試合を目論んでいるらしい。抗議行動のように、同じコースを走るという石尾。赤城は結局、それに付き合う。

 トウラーダ
 ポルトガルに移り住んで、白石は今までにない心地よさを感じていた。ホームステイ先の息子・ルイスは同じ自転車レーサーで、ドーピングの疑惑から漸く復活したばかり、ポルトガルの闘牛トウラーダを見てショックを受けた白石に、立ち直る切っ掛けを与えてくれた恩人だった。だがまたしてもルイスに薬物使用の疑いが掛けられる。…


 『サクリファイス』のスピンオフ短編集。ベテランとして登場していた石尾の、新人だった頃のエピソードは何だか新鮮でしたね。人に歴史あり、赤城の「ツール・ド・フランスに連れて行け」の言葉が石尾を通じて白石に繋がって行くんですね。赤城が語っていた「走らなくなった石尾を想像できない」ってのも、切ない形で実現してしまう。トラブルが起きようと、全て「走ること」で解決する石尾さんは、かっこいい人だったんだなぁ、としみじみ思いましたよ。そんなチームメイトを理解し、クッション役になる赤城さんもね。