読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

夜の写本師 乾石智子著 東京創元社 2011年

 乾石智子、デビュー作。

 右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。だが、育ての親エイリャと幼なじみの少女フィンが殺されるのを目の当たりにしたことで、彼の運命は一変する。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔導師アンジスト。彼への復讐を誓い、カリュドウはエイリャの遺言に従ってパドゥキアへ行く。そこで魔道師ガエルクの下、ガンディール呪法を学ぶ。
 カリュドウはすぐ頭角を現した。だが若い力は驕りを呼び、結果、依頼者の少女と姉弟子を喪うこととなる。
 ガエルクはカリュドウを破門する。カリュドウは自身の間違いを呼び起こす切っ掛けとなった呪法、奇妙な小冊子に興味を持ち、写本師イスルイールの門を叩く。
 魔法とは異なる力を操る写本師。その神髄に触れ修行をつみ、だがガエルクの死を伝え聞き言伝を受け取り、やがてカリュドウはアンジストの住む<嘆きの地>エズキウムを訪れる。
 目当てはエイリャの友人で、行方をくらませている魔道師ケルシュ。書物の魔法使い、ギデスディンの魔道師のケルシュは、自分の本の中に隠れているに違いない。
 ケルシュの本が引き取られた写本工房で働きながら、カリュドウはケルシュを探す。だが行き当たったのは、エイリャからカリュドウの生い立ちを記してあると示されたことのある『月の書』。カリュドウはその中に引きずり込まれ、前世の自分たちの生を追体験する。
 生まれつき月と海と闇の力をもった娘シルヴァインは、旅の魔道師アムサイストに恋をした。すぐ上の兄ブリュエや、家庭教師代わりの魔道師キアルスの心配を押し切ってアムサイストに嫁ぎ、そして裏切られる。遠いエズキウムの地で犯され、殺されかけながら、シルヴァインは呪詛の言葉を吐く。アムサイストは死ぬことができない、何百年も何千年も、シルヴァインに殺されるまで。シルヴァインは幾度でも生まれ変わる、その時を怯えて待つがいい。呪いは彼女を魔法で見守っていたブリュエやキアルスまで巻き込んで成立した。
 シルヴァインは次の世、マードラ呪法の魔道師イルーシアとしてよみがえる。エズキウムの魔道師エムジストに、エズキウムの地の魔法によるまもりを依頼され、その地に赴く。まだ前世の記憶が戻っていなかったイルーシアは、エムジストの騙し討ちに会い、自身エズキウムの地の人柱にされてしまう。闇の力を奪われて。
 イルーシアの怨みはシルヴァインの呪いと併せて、ルッカードに重ねられた。
 ブリュエの生まれ変わりガエルクの元で、ルッカードはガンディール呪法を身につける。今度は初めからアンジストを滅ぼす目的で。寸前で、しかしその願いは叶わず、ルッカードのガンディール呪法と海の力は、アンジストに呑み込まれた。
 月の巫女、闇の魔女、海の娘、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、千年の時を経てカリュドウの運命と交わる。魔法の力を失い、夜の写本師として、カリュドウはアンジストに立ち向かう。…


 この間読んだ『魔導師の月』が面白かったので、借りてみた一冊。
 成程、過去の世界を追体験、というのはこの作者の得意手法だったのか。
 この間の本で慣れていたのか、カタカナ単語には馴染むのが早かったです。
 二作目がローマっぽい雰囲気だったのに対し、一作目はもうちょっとアジアより、というかアラブよりというか。二作目もそうだったのですが、過去の因縁話がある分、二作も三作も読んだようなお得感(笑)。
 本好きとしては、書物に魔法が宿る、という設定自体が何とも魅力的でした。言葉や文字に魔法が宿る。私は常々、書き文字には個性というか性格が出るようなぁ、と思ってもいたのでこの魔法はすんなり入って来ましたね。二作目ではお気楽な兄ちゃんに見えたキアルスがこんな過去を背負った人間だったとは。「導き手」と成長した彼は何だか新鮮でしたね。「眉毛が太い」って、そんなふうな顔は想像してなかったし、ってこれはケルシュに対する表現ですけど。
 海外SFやファンタジーの系譜に見えつつ、根底を流れるのは日本独特の感性なんだとか、というのは井辻朱美さんの解説にあってへぇ、と思いました。
 一年で一冊ずつ、この調子で出版されるのかしら。ちょっと追いかけてみよう、と思いました。