読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

炎路を行く者 ―守り人作品集―  上橋菜穂子著/佐竹美保・二木真希子絵  偕成社ワンダーランド  2012年

 ヒュウゴは何故自分の祖国を滅ぼした男に仕えることになったのか。ヒュウゴの生い立ちが明かされる中編と、15歳のバルサの一幕を描いた短編を収録。『守り人』シリーズ番外編。

 炎路の旅人
 ヨゴ皇国が滅ぼされた。ヨゴ帝の近衛兵<帝の盾>の一員だった父も殺されたらしい。下町の倉庫に、他の<帝の盾>の家族と共に潜んでいたヒュウゴは、タルシュ軍の襲撃を受けた。火を放たれ、守ると誓った母と妹を殺され、しかしヒュウゴは生き延びる。何とか隠れ家から抜け出た彼を助けたのは、リュアンと言う口のきけない娘だった。
 リュアンは幼い頃、水に落ちて生死の境を彷徨って以来声を失い、その代わりのように異世界が見えるようになった。タラムーと名付けた生物を介し、やはりその生き物が見える人間とのみ会話できる。ヒュウゴは彼女とその父親に介抱され、残党狩りを逃れるため、平民として生きて行く決意をする。
 マール酒場で下働きをするヒュウゴ。勤勉な働きぶりは次第に周囲に認められるが、皆と一線を引く態度は変わらない。だが武人として受けた教育とぶつけられないままの苛立ちが、ヒュウゴを下街のならず者連中のカシラにのし上げて行く。
 抗争に巻き込まれそうになったリュアンを助けてくれた通りすがりの男を、今度は恩返しとして料亭から逃がしたヒュウゴは、その男からスカウトを受ける。タルシュの統治法、二人の兄弟王子の確執、未だに政治の中枢に座り、のうのうと暮らしている中流武人の存在。今まで知らなかった事実を教えられ、ヒュウゴはヨゴ皇国が何によって滅ぼされたのか、自分の視点の狭さを思い知る。
 征服された国で、自分ができることは。ヒュウゴは自分の足で立つことを決意、タルシュ軍へ志願する。

 十五の我には
 バルサ15歳の頃。隊商の護衛士としてジグロと共に雇われたが、護衛士仲間の裏切りに会い、盗賊に襲われ重傷を負う。一つの街に留まり、傷が癒えるのを待つ二人。やがて、バルサの働く賭博酒場を、内通者が訪れる。怒りに我を忘れるバルサ。内通者の誘いに乗り、短槍を持って船着き場に向かう。…


 佐藤多佳子さんとの対談でちらっと題名が出たきり、幻の作品となっていた『守り人』シリーズ番外編。
 ナユグとの絡め方がいいよなぁ。リュアンがいなかったら、というかタラムーが見えなかったら、この世界が普通の世界であってもいいような話なんですよね。このエピソードで、世界がしっかり繋がっていることが分かる。
 で、上橋さん、暴力で屈服させる時に起きるような暗い快感を描くのが上手いよなぁ。
 バルサの話は、程度の差はあるものの、誰でも経験する子どもの頃の足掻きや背伸び。ジグロの器の大きさが嬉しくて哀しい。
 佐竹さん二木さん、『守り人』『旅人』どちらも尊重して二人ともの挿絵を載せる、そこも嬉しい一冊でした。