読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ラン 森絵都著 理論社 2008年

 森絵都直木賞受賞後第一作。
 ネタばれになってるかも、すみません; 

 夏目環は天涯孤独な身の上。9年前両親と弟を事故で亡くし、引き取ってくれた叔母を2年前乳癌で亡くした。以来大学も中退して、アルバイトを転々としながら日々を過ごしている。やはり奥さんと子供を亡くしている自転車屋の主人と仲良くなったものの、その家の猫が死んだことを切っ掛けに、主人は店をたたむと言い出した。餞別にくれたのがオーダーメイドのロードバイク。息子の誕生日にと作っていたというその自転車は、やがて環を乗せたまま、冥界への道を走り出す。気が付くと環は、9年前死んだ両親や弟と会っていた。
 決して円満な家族ではなかったのに、みんな優しく環を迎え入れる。厳しい言葉を発したのは叔母の奈々美のみ、ここは死んだ人間のファーストステージで、この世に未練がある魂は断ち切れるまでここで下界の様子を見守れるのだとか。本来なら冥界への道「レーン」を40キロ、日が落ちて日付が変わるまでの間に走り続けなければ辿りつけないのだが、環の場合は自転車が導き手になったらしい、しかしこの自転車は本来の持ち主に返すべきである。環はここには来てはいけない。
 下界での生活が決して楽しいものではなかった環にとって、懐かしい人に温かく迎えられる誘惑は到底堪えられなかった。筋肉痛に耐えながらも冥界に通う環を案じ、奈々美は自転車の本来の持ち主を探し出してしまう。環は意地になり、自分の足で40キロを走り通して冥界まで通う、と宣言してしまう。こうして環の走行練習が始まった。
 ジョギングに精を出すうち、何だか妙な男にスカウトされて、環はランニングチームに入ることに。メンバーは謎多き男、コーチのドコロさん、会社を早期退職した悠々自適の熟年男性・藤見さん、ぷくぷく太った大学生・幡山くん、ウェイターの大島くん、ドコロさんの姪っ子で虚弱体質の小枝ちゃん、水商売の女性・清花さん、そして環のバイト先のパートさん、毒舌で誰にでも突っかかる真知栄子。ドコロさん以外初心者ランナーの8人は衝突や和解を繰り返し、何時しかドコロさんの思惑に載ってフルマラソンに参加することになってしまった。
 軽井沢での合宿最終日、真知栄子が介護していた義母が倒れたと連絡が入る。一気に元気を失くす真知栄子。醤油一升瓶一気飲みで自殺を図り、その後意識を取り戻さない。環は大島くんと共に、ロードバイクで冥界に向かう。…

 そうか、私森さんの作品、直木賞受賞以降読んでなかったんだなぁ。
 森さんの作品に出て来る女の子はどうも意地と言うか根性と言うかが悪くって(苦笑;)、しかもその悪さが、「私はこんな風にはねじ曲がらないなぁ」って悪さなんですよね。プライドというか品性を持てよ、って感じで。だからどうも登場人物に寄り添って読む、ということがし辛くて、ちょっと遠ざかってました。例えば今回のお話にしても、自分の不幸にどっぷり浸かっているという面だけから見れば、私には十二国記シリーズの『風の万里 黎明の空』の方が胸に痛い。
 でもそれでお話の面白さが失われる訳ではなく、するすると読めました。環がマラソンを走るきっかけ、ってのは他では絶対見られない設定だもんなぁ(笑)。自分の力で走り出すことで、今はもういない家族とも訣別できていく展開はやっぱり感動したし。
 『カラフル』でも森さん、死後の世界みたいなものを描いてましたよね。死者との別れ、残すもの残された者に対して、何か思う所があるのかしら。