読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

金色の野辺に唄う あさのあつこ著 小学館 2008年

 92歳で死んだ藤崎松恵と、彼女を巡る人々の短編集。

 葬送の唄
 死の床で、松恵は今までの人生を振り返る。三人の子供たちのうち、一人美しく生まれてしまった末娘奈緒子のこと、最後まで松恵の不実を疑っていた夫のこと、妻に先立たれてしまった孫・充のこと、充の息子で充が立ち直るまでの間しばらく引き取って一緒に暮らしていた孫息子・東真のこと、幼い東真が描いた庭の柿の絵のこと。いつの間にか東真が捨ててしまった絵を、松恵は棺に入れてくれと頼む。東真に、もう一度柿の絵を描いて欲しいと。

 風の唄
 臨終の席、虫の息の下、東真は曾祖母に柿の絵を描くよう言われた。中学の美術部のクラブメイト・瑞樹映子の圧倒的な才能を見て以来、描くことをやめてしまった東真。過去に描いた絵も捨てていた彼は、身内から突き上げられる衝動の為ではなく、他人の為に、柿の絵を描き始める。曾祖母の棺に入れるために。

 竜胆の唄
 松恵の祭壇に、奈緒子は百本の竜胆を飾りたいと言う。そんな傲岸なまでに美しい義母を見ながら、美代子は松恵を、自分の生い立ちを思う。早くに死んだ姉・早季子にいつも比較されていた幼少時代、漸く一人娘として見てくれたかと思いきや、交通事故で死んでしまった両親。美代子がいい、と言って求婚してくれた充、美代子の中に「珠がある」と言ってくれた松恵。

 遙かなる子守唄
 葬儀のためにと竜胆を百本、注文された。長谷生花店に勤めている小波渡史明は、以前二度だけ会った松恵を思い出す。男に捨てられ自殺した母、代わりに育ててくれた祖母は酒に溺れ、繰り言ばかり言って史明を追いこんだ。「おまえが生まれんかったら」のひとことに、史明は刃物を手に取る。祖母を刺した史明を祖母は庇い、困惑して迷い込んだ史明に松恵は肉の甘露煮を振舞う。

 大樹の唄
 喪服の準備をしながら、奈緒子は幼い頃を思い出す。姉のお下がりだった子供用の振袖は、あまりにも奈緒子に似合い、姉の美恵子の嫉妬を買ったこと、そんな美代子に父は味方したこと。餓えた想いは夫を追い詰め、離婚に至ったこと。自分は松恵のように穏やかに死を迎えられるのだろうか。

 金色の野辺に唄う
 葬儀の日。松恵が送られる。…

 改めて見直してみると、最初のページに家系図と言うか相関図と言うかが載ってました。…しまったなぁ、もっと早くに気がつけばよかった。出て来る女性の名前が漢字三文字で○○子と言うのが多くて、読んでる途中で誰が誰だか分からなくなったりしたんですよ;
 相変わらずちょっと大げさかな、くどいかな、と思うような表現や言葉使いがあったりして、私には入り込むことができにくいんですが、話としてはするする読めました。みんなから愛されて慕われて大往生した松恵にも、勿論わだかまりはあって、でも金色の野辺で見事に送られる。周りの人の想いまで浄化して行く。
 葬式というのは残った人のためにやるそうなんですが、今回の話は死んだ人も幸せに送られてましたね。