読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ツナグ 辻村深月著 新潮社 2010年

 死者と生者を会わせる使者(ツナグ)に関する連作短編集。
 ネタばれあります、出たばかりの本ですみません;

 

 アイドルの心得
 死者に会える方法がある。ただし会えるのは生者にとっても死者にとってもただ一度きり。
 27歳の冴えないOL・平瀬愛美は、三か月前急死した38歳のバラエティタレント・水城サヲリに会いたい、と依頼する。エリート一家の中のみそっかすで被害妄想も加害妄想も強く人付き合いの苦手な愛美にとって、キャバ嬢出身なのに好感度の高い水城サヲリは憧れの人だった。
 ただのファンには会ってはくれまい、と半ば諦めていたのに、サヲリは愛美に会うと返事を寄こしてくれた。
 満月の夜、品川のホテルの一室で、愛美はサヲリと会う。ただ一度の機会を使って。

 

『アイドル』のモデルは飯島愛さんかなぁ。人付き合いの苦手な平瀬さんは身につまされました; そんなに無理して性格の合わない人と付き合うことないじゃん、って開き直れるのはもう少しトシ取ってからかなぁ(苦笑;)。

 

 長男の心得
 畠田靖彦は二年前、癌で死んだ母親に会いたいと依頼した。靖彦は地方の旧家の長男で、家業を継ぐ分責任感が強く、その代わり独断的で高圧的でもある。口を開けば憎まれ口ばかり、弟の久仁彦は大学まで出してやったのに地元に戻って来るし、一人息子の太一は頼りない。母親はどう思っていたのだろう。

 

靖彦さんは、それでもあの性格というか憎まれ口は、直した方がいいと思うけどね。「あの人はしょうがないのよ」ってわかってあげてる家族が出来た人たちなだけだし。

 

 親友の心得
 高校二年生の嵐美砂は、同じ演劇部で親友の御園奈津に会いたかった。他の女子高生よりちょっとスノッブな私達、話題が豊富で知識も広くて、でも御園は無条件に嵐を慕って立ててくれた。二人の良好な関係は二年の秋口まで続いた、三島由紀夫の『鹿鳴館』の主役を争い、嵐が負けるまでは。嫉妬にかられた嵐は冬の寒い日の帰り道、坂道の上の住宅にある散水用の水道の蛇口を開ける。凍った道で誰かが滑って怪我するように。そして次の日、自転車のブレーキを切り損ねて車に轢かれて、御園が死んだ。

 

嵐の傲慢さも身につまされました; 若さ故と言えばそうなんでしょうけど。
絵に描いたような「善い人」の御園にも、逆鱗はあった訳ですね。それが恋愛沙汰、って言うのがねぇ。

 

 待ち人の心得
 病院で、土谷功一は老婦人に声をかけられた。誰か会いたい人がいるのではという問いに、土谷はかつての恋人の名を上げる。9年前の三月、風の強い日に出会い、二年間同棲し、結婚を申し込んだとたん行方不明になってしまった彼女の名を。どこかで生きている、きっとまた姿を現すとの願いも虚しく、使者は告げる。彼女は土谷と会う、と。

 

 使者の心得
 高校二年生の渋谷歩美は祖母から、後継者になってほしいと頼まれた。祖母の古びたノートをテキストに、歩美は使者の仕事を教わって行く。依頼人に会い、歩美は考える、自分なら誰に会いたいか。幼い頃死んだ母か、母を殺して自らも死んだとされる父親か。今自分が会いたいと言えば、祖母も父親に会うことができる。歩美の思い出の中の二人は、いつも仲良く幸せそうだった。…

 

 面白かったぁ。
 これね、最終話『使者の心得』の途中で、大体歩美の両親の死の真相の察しがついちゃうんですよ。「こうしたらああなるよ」みたいな条件を提示された所で。ああ、なるほど、と思ってたらもう一ひねりありましたね、その切っ掛けで。温かくて、でも哀しくて。読ませるなぁ。 
 最後の歩美の台詞「いつか会うんだったらばあちゃんがいい」は泣けますね。歩美くん、いい子に育ったなぁ。