読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

前夜の航跡 紫野貴李著 新潮社 2010年

 第22回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
 大正末期から昭和初期、海軍と木彫職人・笠置亮佑にまつわる連作短編集。…だよね??
 ネタばれになってるかもしれません、すみません;

 第一話 左手の霊示
 魚雷の開発中の事故で支倉竜之介大佐は片目を失い、「わたし」芹川達人中尉は左手を失った。わたしの左手の義手を彫ったのは仏師の笠置亮佑、以来わたしには、と言うよりわたしの左手には、霊力が宿るようになった。
 村路海軍大佐が自殺した屋敷に、大佐の幽霊が出るようになった。調査をしていた芹川は左手が求めるまま、亮佑を呼ぶ。軽巡・神通の艦長だった大佐は、演習中の事故により神通を沈没させており、多くの犠牲者を出した。その責任を取って自殺したものの、成仏できないでいるらしい。芹川、支倉と亮佑は連れ立って事故現場へ赴く。どうやら事故の犠牲者が、大佐の成仏を妨げているらしい。

 第二話 霊猫
 海軍では艦内の鼠被害に頭を抱えていた。海軍省経理局会計監査課・榎田利秀は郷里の噂を聞きつけて、笠置亮佑に木彫の猫を依頼する。以来、鼠はぱったりいなくなった。驚く榎田に、亮佑は木彫の三毛の子猫を渡す。曰く、この猫が榎田の傍にいたいととにかくうるさかったとか。二日後、榎田の乗った軽巡友鶴は横波を受けて転覆した。榎田を導き、救ったのは三毛猫だった。

 第三話 冬薔薇
 機関長・塩崎寿実生大尉は肝臓を悪くし、松山近くの療養所に入った。焦る塩崎に、同期の韮沢が木彫の薔薇の一輪ざしを持って見舞いに来る。海水でぐっしょり濡れた韮沢は、この薔薇に毎朝毎晩念じれば、必ず病気は治ると塩崎を励ます。それから三日後、見知らぬ男が塩崎を訪ねて来た。笠置亮佑と名乗る男は、自分が彫った未完成の薔薇を、韮沢が勝手に持ち出して塩崎に渡してしまった、それを完成させに来たのだと言う。

 第四話 海の女天
 小田川雄大尉は駆逐艦初雪に乗る前日、笠置亮佑と名乗る男の訪問を受ける。郷里の母親が息子の無事を祈って、仏像を彼に依頼したのだとか。彼が彫った弁財天は、幼い頃、海に浚われた自分を助けようとして身代わりのように死んでしまった姉にそっくりだった。台風の中、初雪の艦首は割れ、小田川は海に投げ出される。彼を救ったのは弁財天だった。

 第五話 哭く戦艦
 横須賀に繋留されている戦艦三笠が哭いていると言う。芹川と支倉が調査したところ、確かに記念艦三笠は憤っていた。曰く、自分を爆沈させた人物を処罰せよ、と言う。芹川は亮佑を呼び、船霊と会話させる。亮佑は船霊の嘘を見破り、再び船霊を出航させようと床板に彫刻刀を突き立てる。…

 …ええとですね、作品の良し悪しではなくてですね、ちょっと引っかかったんですが。
 ファンタジーノベル大賞って、長編が対象じゃなかったっけ?
 短編形式の作品の前例がなかった訳ではなかったんですが、それにしても底には大きな流れがあって、最後に一つにまとまる、的な感じの作品だったと思うんですが。こんなガチ即戦力、いつでも応募作からの連載OK、みたいなのは、作品の面白さ以前で、何だか異和感が漂いました。個人的な価値観の差なんでしょうけどね、渾身の一作を応募してこいよ、と思っちゃうんだよなぁ。
 日本海軍の戦艦って演習でこんなにぼこぼこ沈んでたのかとか、例え溺れ死んだのではなくても海に浚われた弟を助けるために飛びこんだのならお姉さんの死因はやっぱり弟にあるんじゃないかとか、妙に冷めたことを思ってしまったのは、素直に読めなくなってたからかしら。あと、これは気のせいかなぁ、文章があまりお上手ではないような…。言葉を拾って頭の中に情景を浮かべて、という作業を途中で放棄して、「内容さえ把握できればいいや」的な読み方をしてしまいました。
 とにかく、ファンタジーノベル大賞大賞受賞作にしては異質な感じがしました。これが他の賞への応募作品だったら、もっと素直に読んでたんだろうなぁ。