読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

獣の奏者 外伝 刹那  上橋菜穂子著  講談社  2010年

 『獣の奏者』本編で描かれなかったエリンとイアルの経緯、エサル師の過去など。
 中編2本、短編1本収録。

 刹那
 エリンが長い陣痛に苦しむ中、イアルはエリンとの過去を思い出す。
 そのころエリンはラザルの王獣保護場にいて、イアルを訪ねて来ていたこと。≪堅き楯(セ・ザン)≫の誓いを解いて指物師になったばかりのイアルは、刹那に生きていた以前と違い、あまりにも長い時間に絶望にも似た思いを抱いていたこと。イアルの前で明るくふるまっていたエリンは、保護場での辛い思いを隠しており、それはイアルも同様だったこと。
 イアルはエリンを龕灯祭りへ誘い、そこでイアルは生き別れた妹に会う。自分の存在などとうの昔に忘れ去られていたことを知り、空虚な思いを抱くイアルに、エリンは問う。「…あなたは、人生をあきらめてしまうの?」
 やがて子を身籠り、エリンのカザルム王獣保護場への長い不在が不審がられて、エリンとイアルはカザルムへ戻る。エリンの体調は決してよくはなく、また国の為政者が注視する中、イアルの母危篤の知らせが届く。イアルには自分を売った母への蟠りはすぐに解けるものではなく、そんなイアルに代わり、エリンは一人王都へ向かう。身重での旅はイアルに母の想いを伝えた代わり、エリンの子を産む力を大きく削いだ。
 それでもエリンは、子供を産もうとしていた。

 秘め事
 エサルは下級貴族の娘だった。姉として婿を取って家督を継ぐことが義務だったが、エサルはその権利を妹に譲ってタムユアン学舎に進学した。そこで医師の息子・ユアンや教導師の家系のジョウンと出会う。二人を通じてエサルは王獣を目にし、その泰然とした様子に惹かれ、ホクリ師に出会い、フィールドワークを通じて新しい薬草を見つける。その過程でエサルはユアンと結ばれてしまう。ユアンには婚約者がいて、約束された未来があった。自分とユアンの関係で誰も幸せにならないこと、それがなくても自分の未来が見えないことを思い知ったのは、月のものが遅れていると気付いたときだった。
 ユアンと別れ、その敵討ちのように新薬の証明に打ち込むエサル。ホクリ師の反対を押し切って、肝臓に寄生虫を寄生させた王獣をその薬で治療し始める。

 初めての……
 二歳になったジュシの、断乳のエピソードを描いた小編。

 エリンとイアルの関係というのは、何だか哀しいなぁ。
 すがりついてるとか求めあってるとか、そう言うことではない気がする。多分どちらも独りで立てる。ただいとおしいと思う気持ち。相手への、存在理由。何だか切ない。でもね、やっぱりね、子供は考えてから作った方がよかった気がするんだけどね。…そんなこと言ってたらエサル師から「そう考える人には エリンの気持ちは、けっしてわかるまい」とか言われちゃうんですけどね(苦笑;)。エサル、エリンが可愛い筈だわ。若い頃のあの突っ走りっぷり、エリンにそっくりじゃん(笑)。
 「生まれてきて、よかった」と思えること。それがエリンの強さ。
 辛い結末を知っている分、静かに切ないような気がしました。