読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

第二音楽室 佐藤多佳子著 文藝春秋 2010年

 音楽と学校を舞台にした短編集。

 第二音楽室
 小学校5、6年でやる鼓笛隊で、ウチらは「楽器」からはずれてしまった。5年から引き続きピアニカを弾く人数は少ない。受験に専念するためとか興味がないとかがっちりオーディションに落ちてしまったとか色々理由はあるけれど、ウチら6人は「落ちこぼれ」として、多くの時間を第二音楽室でたむろすることが多くなった。
 元々仲がよかった訳ではなかったが、6人は不思議な仲間意識で繋がった。受験をするため練習時間を取られるのが嫌だった山井、二学期に転校してきた江崎、個性的で孤高の存在ルーちゃん、オーディションを受けて落ちた久保田、佳代ちゃんとウチ。独特の遊びを考え出して、ドッジボールごっこして、漫画やゲームやお菓子を持ち込んで。江崎がピアノを弾けること、中央ハ音が分かることも知った。こっそりと楽しかったピアニカ組の秘密基地は、ある日、クラスの男子三人に見つかって、自然解散になった。6人には何かを残して。

 デュエット
 音楽の実技テストを、男女ペアで歌うことになった。好きな相手に申し込みなさい、という先生の言葉に悲鳴が上がった。美緒は軟式テニス部の三野田司が気になっている。キレイなボーイソプラノで、楽しそうに歌うから。でも三野田は藤川さんを好きなんじゃないかと思っている。

 FOUR
 音楽の先生に呼ばれて、リコーダーのアンサンブルをすることになった。小学校の頃からリコーダーを習っていた「私」山口鈴花と、ノッポな有名人西澤一人、ピアノが半端なく上手い美少女・高田千秋、音楽センスは抜群だけどまだまだ小学生のように幼い中原健太。卒業式のBGMとしてリコーダーの四重奏をしてほしいと言う依頼に、鈴花たちは一年間練習を繰り返す。音色は四人を様々に結びつける。千秋は好きな先輩の第二ボタンを貰い、鈴花は健太にチョコレートを渡し損ねる。察しが悪くて世界一間の悪い男・西澤は悪気なく色々邪魔してくるし、健太は無邪気に軽々と跳ねて行く。
   
     そうそう、リコーダーのアンサンブルって奇麗だったな、と思い出しました。
     一時期、教育テレビの『ふえはうたう』とか見ていたもので(笑)。
     アニメ『エマ』のBGMにも使われてましたよね。


 裸樹
 中二の時にささいなことからいじめにあって、望は学校に行けなくなった。高校から何とか通えるようになったのは、公園でストリートミュージシャンの歌を聴いてから。その曲が知りたくてパソコンにアクセスし、CDが欲しくて引き籠り状態から抜け出した。その曲が弾きたくてアコギを練習した。同じ中学校からの生徒がいない高校に通い、軽音部に入った。キャラをかぶって友達を作った。レベルの低い、お遊びのバンドにも付き合った。ギターが弾けることがばれて、やがて気まずくなるような友達関係。ある日、誰もいない軽音部の部室で、望は江上先輩と出会う。二年もダブっている噂の先輩は、公園でギターの弾き語りをしていたあの人だった。…

 結局私は、この作家さんが書く女の子が好きなんだな。
 多少蓮っ葉な言葉使いで、お行儀が悪くて、妙に痛々しい。一瞬の切なさを切り取ったような場面、もがいてあがいて、すっ、と伸びる瞬間。ああ、あるよね、って響いてくる。
 表題作『第二音楽室』の後ろめたさを伴った楽しさ、部室でのお茶会を思い出しました。調子に乗って、ある日唐突に終わったりするんですよね。
 長さから言うと中心になるのは『裸樹』なんでしょうね。中学校の時のトラウマから、人との距離の取り方が分からなくなっている。用心深く人を観察する、天然のキャラをかぶる。「ウチは、たぶん、二度と、人を信じられない。」って一文は本当、胸に痛い。自分にとっての特別な一曲のスコアが手に入って、夢中で練習して、かぶっていたネコがばれて。憧れの人が見つかってデュエットできて。おずおずと、少しずつ近付いていくさまが愛おしい。
 それでも多分、望は人を信じ切ることはできないかもしれないけど、丁度いい距離は見つけられるんじゃないかな。何年経っても、人間関係はむつかしいけどね。