読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

“文学少女”と神に臨む作家(ロマンシェ) 上下巻 野村美月著 ファミ通文庫 2008年

 “文学少女”シリーズ、本編最終話。
 ネタばれあります、すみません;

 天野遠子先輩の卒業を控えて、琴吹ななせと井上心葉の交際も順調に進行している。土曜日に塩入シュークリームを手土産にした遠子先輩、日曜日に手作りレモンパイを携えた琴吹さんを家に迎えるが、その日櫻井流人もいきなり乱入。琴吹に散々嫌がらせをして二人の間をかき回す。
 流人の行動が理解できない心葉の前に、二年前「井上ミウ」の担当だった編集者が現れる。もう一度小説を書かないか、とペンを取ることを勧める彼の影には遠子先輩の姿があった。裏切られたように感じる心葉。もう二度と書かない、と宣言する心葉の前を立ち去る遠子に対し、流人は色々と心葉にちょっかいを掛けて来る。
 出版社の記念パーティに心葉を誘い出す、琴吹とのデートを邪魔する。パーティ会場で会った流人の母親・櫻井叶子は心葉に、「あなたは作家になれない」と言い放つ。叶子の小説『背徳の門』は、自分と遠子の両親との特殊な三角関係をモデルに描いたもので、確かに心葉の書く世界とは真逆に赤裸々で冷徹な作品だった。とある女流作家とその親友、親友の夫で作家を見出し世に送り出した編集者。作中で叶子に当たる人物は編集者夫婦に毒を盛って殺しており、叶子は実際にも手を下したのか、出版当初から話題になっていたらしい。
 遠子先輩の暖かさと琴吹さんの安らぎの間で心葉は揺れる。流人の呼び出しで、高熱を出したり生まれ故郷に帰ったりする遠子先輩に付添う羽目になり、琴吹との約束をすっぽかし、でもその度琴吹はそれを許す。流人の嫌がらせは麻貴先輩の妊娠で一時止まったが、遠子の両親が事故で死んだ日の記憶が戻るにつれ、流人は壊れて来る。車道に飛び出そうとする流人を竹田千愛がナイフで刺し、病院に担ぎ込まれたその日、心葉は真相に気付く。叶子を流人のいる病院に連れて行こうと、心葉は叶子に真実を語り始める。遠子の両親を殺したのは誰か、叶子の真意はどこにあったか、遠子の母親は叶子をどう見ていたのか。「いない存在」として叶子に扱われていた遠子の想いも。
 そして、心葉の心に衝動が湧き起こる ――「書きたい」。…

 …上巻と下巻の間が4ヶ月あいてる、ってリアルタイムで読んでたファンの人辛かったろうなぁ。
 今回のモチーフはジッド『狭き門』。…すみません、題名すら知らない話でした;
 謎に包まれていた遠子の家庭環境が明かされます。
 作家と編集者、その家族や友人。そのどれもが違う所で結びついていて、比べることはできない。
 だけど今回、遠子の父親はどちらともと関係していた訳ですよね?? 「作家の糧となるなら」って、編集者である父親はともかく、母親はどう思ってたんだろう、てのはちょっと気になりました。彼女も、事態を察するようになってからも、それを何のわだかまりもなく許していたんだろうか。
 美羽の、「読者は作家を裏切る」の言葉にちょっとクビをすくめました。ファンだからこそなのですがより面白い次回作を求め、勝手に失望して、人によっては去って行く。でもね、中にはこちら側が一方的に上げたハードルをひらりと飛び越えてくれる人もいて、「これだからやめられないんだよ~!」って心の中でスタンディング・オベーションする時もあるんですよ。…とちょっといい訳してみる(苦笑;)。
 とはいえ、納まる所に納まったのはよかった。前巻までの流れだと、琴吹さんとも上手くいくかも、みたいな感じになっていたので。 
 心葉は狭き門をくぐる決意をし、遠子はその門へ導く道案内の役割を買って出る。そうそう、麻貴先輩の結婚相手には驚きました! 
 実は、心葉に「俺を刺してくれ」と頼む流人の姿に、ほんの少し腐女子回路が動いてしまったことを告白します; …だって流人、「俺を殺してくれる人が好みのタイプ」とか言ってたじゃん!(爆!)
 そして私は、道明寺粉の桜餅の方が美味しいと思います。