読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

渡りの足跡 梨木香歩著 新潮社 2010年

 渡り鳥の足跡を辿りながら、様々な「渡り」に思いを馳せたエッセイ集。

 三月末、北方に帰るオジロワシオオワシワタリガラスたちに会うため知床へ。
 ケミチップ湖のほとりのホテルでカワラヒワ、ウソ、ヤマゲラや、都会とは印象の違うヒヨドリに会う。
 新潟県の福島潟でオオヒシクイの渡りに思いを馳せる。
 新千歳空港近くの長都沼にはコースをはずれたクビワキンクロが一羽。
 ハチクマを見て安曇野を思い出し、英国で見た弱ったアカギツネをからかうマグパイの狡知へ繋がる。
 諏訪湖オオワシの生き様と、米国に移民して生きたひとびとを重ねる。
 ウラジオストックで森を案内して貰う。読んでいた本で紹介されていた案内人・デルスー・ウザラーの、当たり前のように行う行為の尊さを実感する。
 カムチャツカで再びオオワシに。
 また知床へ。オオワシに会い、北海道へ「渡った」開拓民の女性の話を聞く。…

 そうそう、エッセイではこういう文章を書く人だった、と読み始め、慣れるのにちょっと時間がかかりました。
 梨木さんの時間の流れは独特で、決して急がない。それが敬意にも、品性にも繋がってる気がする。物語の時とはまた違う、静謐な文章。
 私は鳥の知識はまるでなく、数々出てきた鳥の名前も「ふぅん」でしたが、表現がやっぱり独特ですね。ミコアイサを、「ヒマラヤの雪男をロシアの貴婦人に仕立てたような、そんな異形性と高貴さを併せ持った鳥」と書いたり、いくら動いても足跡が付かないトガリネズミを一言、「妖精のようである」と書いたり。
 飛行機の、滑走路をのたのたと移動する様子を、「相変わらず地面を歩くのに慣れていない飛び虫のように」。ハクチョウの一群を「キャベツ畑ならぬ盛り上がった白いクッションの畑のように」。マヒワについて「陽光の降り注ぐ冬の林の中で、この群れに出会うと、全体に黄緑がかった黄色の、ふわふわしたぼんぼんが、天から尽きることなく降ってくるような、祝福されているかのような喜びである」。…妙にユーモラスで、何だか温もりがあって、でも冷静。一緒に描かれている移民ひとたちの話なんかは、決して軽くて読み易い話ではない。
 こちらの時間の流れまで変わってしまうような本でした。