読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

オープン・セサミ 久保寺健彦著 文藝春秋 2010年

 短編集。

 先生一年生
 新任一年目で、時田陽介は5年4組24人の担任になった。はっきりしない態度が児童に嘗められ、みるみる学級崩壊一歩手前状態に。学年主任からは何とかしろと過干渉され、一組担任の本橋富士子先生には指導方針が理想論だと冷笑される。熱血先生を目指す陽介としては、本橋先生の理論的で冷静なクラス運営にあまり賛同はできないが、このままでいい筈がない。5月の連休までに何とかしろ、と発破をかけられ、陽介は「ガーンとやる」決意をする。

     …新任で5年生の担任をいきなり受け持たせるものなの?? そりゃ大変だ。
     こんなに上手くいくものかなぁとは思いつつ、とりあえず、本橋先生の授業は信頼おけそうですね。

 はじめてのおでかけ
 4歳の優奈に、一人で出かけたい、と言われた。父親の隆明は気が気ではない。在宅勤務の翻訳家の立場を利用して、妻の分まで育児に励んだ可愛い一人娘の自立心。心配する隆明をよそに、妻はそこまで気にすることではない、という。決行当日、隆明はこっそり娘の後をつける。
 
 ラストラ40
 今日は小学4年生の息子・俊の運動会。別れた夫も俊に会いに来る。再婚して子供までいる元夫が、相変わらずの女癖なのは何だか腹立たしい。そんな風に人のことを言えた義理ではないのだけれど。騎馬戦で右腕を怪我した俊は、リレーのアンカーを、自分の代わりにお母さんが走ってくれ、と言い出す。

 彼氏彼氏の事情
 4月から主計部数理課に異動して来る佐久間さんは、女性関係でトラブって左遷されてきたらしい。いざ会ってみると、佐久間さんは50歳という年相応に平凡で冷静で、特に若い女性にもてるような容姿でもない。だが、気難しい部下のごたごたを話し合うため誘った酒席で、「おれ」は佐久間さんに惹かれる自分を自覚する。

     …娘さん、父親に向かって「BL」とか言うなよ; あれは親に黙ってこっそり楽しむものだよ;;

 ある日、森の中
 夫の和夫が定年退職して、一日中顔を合わせることになった。その圧迫感と違和感に耐え切れず、弥生は山歩きの同好会に参加するようになる。ある日、奥多摩へ出かけた弥生は仲間と一緒に道に迷ってしまった。食べ物、飲み物もなくなり携帯電話も繋がらない。クマの生息する形跡も見つかり、パーティの仲も険悪になってくる。

     …山歩き仲間の一人、規子さんのあの性格はすげーなぁ。40過ぎまで一人で働いてきて、
     あんな空気読めない、節度ない態度取るかなぁ、とは思いますが。

 さよならは一度だけ
 小学五年の夏休みもあと残り五日になって、お母さんが入院することになった。切迫流産の可能性がある為絶対安静、お父さんも丁度出張で家には弟の創太と二人だけ。その間、来てくれることになったのが祖母の兄、大伯父―通称オージ―に当たる進伯父さん。若い頃チンピラだったと言うオージに、お母さんはあまりいい顔をしない。今回も子供二人に酒を教え、おいちょかぶで遊んで金を巻き上げ始めた。そんなオージは、近所の工事現場の中にある三体のお地蔵さんの、四体目の場所を知っていると言う。…

 個人的に凄く気になっていた久保寺さんの新作です。何しろ「一皮むけた」とか言う書評を読んだもので。
 そうか、主人公の年齢が今までより上なんだな。
 思春期の男の子じゃない分、自制できないくらいの性衝動の記述がない。恋愛感情も描かれてる作品はありますが、どうしても入っていた「欲望」の割合が減って、「愛情」が見やすくなってる感じ。愛情の形も様々で、そのためか好感度が上がって、各エピソードもすんなり入って来る。
 久保寺さん自身の個性は薄まってるかもしれません。でも私は、今まで読んだ中で一番すっきり、読み易かった。素直に面白かったです。今回は「…で?」とは言いませんわ。(←何で上から目線なんだよ・苦笑;)