読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

英雄の書 上下 宮部みゆき著 毎日新聞社 2009年

 宮部みゆきの描くファンタジー
 ネタばれになってるかな、すみません;

 中学二年生・森崎大樹がクラスメイトを殺傷して逃走した。大樹は成績優秀品行方正、両親や妹・友理子にはどうしても信じられない。何か犯行理由や行き先の手掛かりはないかと大樹の部屋に入った友理子は、赤革の表紙の古びた本に話しかけられる。アジュと名乗るその古本は、大樹が、血の繋がらない大叔父・水内一郎の別荘から持ち出して来たものらしい。友理子は、大樹が潜んでいるかもしれないと両親を説得して、その別荘を再び訪れる。別荘の書庫の古本達は友理子に、大樹が『英雄の書』と呼ばれる物語に心を乗っ取られ、英雄<黄衣の王>の器と化してしまったこと、放っておいては<黄衣の王>はこの世界“輪”を破壊してしまうこと、それを防ぐためには器に己を取り戻させねばならず、それは器と血の繋がった子供――この場合は友理子しかできないことを語る。友理子は額に<黄衣の王>を追う者としての魔法陣を戴き、法衣を得て、印を戴く者――オルキャストとして異世界へ旅立つ。
 最初に訪れたのは、物語の始まりにして終りの場所<無名の地>。かつて<英雄>を封印していた『虚ろの書』がある世界。友理子は数限りない無名僧が物語を送り出し、回収する作務を見る。空っぽになった『虚ろの書』を見て無名僧たちは何故かうろたえ、一人の若い無名僧を従者にするよう、友理子に押し付けるように依頼する。
 従者・ソラを連れて友理子は自分の世界に戻る。まず、兄が付け込まれてしまった心の隙を探そう。大樹の学校を探るうち、友理子は大樹が二年になってから、教師ぐるみのいじめにあっていたことを知る。そのきっかけになった一年時のクラスメイト・乾みちるは、自殺を考えるほど悩んでいた。大樹は元々、彼女を庇って教師に目をつけられたらしい。
 事情を聴く友理子やアジュ、ソラを、黄衣の王の使者と名乗る化け物が襲う。間一髪の所で友理子たちを助けに現れたのは、危ない写本を狩る“狼”の一人アッシュだった。
 大樹が乗っ取られた『英雄の書』は、アッシュの世界『ヘイトランド年代記』の中の書物『エルムの書』の写本らしい。エルムとはアッシュの世界の、死者を蘇らせる魔法を完成させてしまった女魔道士の名。その行いを悔いて、蘇った不死の戦士もろともに、その魔法を封印した。だが57年後、あまりの政情不安に王族の一人がその魔法を復活させる。しかも彼・キリクは心を失った死者を兵士として蘇らせたとか。ヘイトランドは今もなお、その魔法の後遺症に苦しんでいる。
 ヘイトランドで友理子は、すっかり姿の変わってしまった水内一郎に会う。水内もまた、『エルムの書』に魅入られていた。彼から<英雄>がキリクを蘇らせようとしていることを聞く友理子。その直後、竜巻のような風の刃が王都を襲う。王都に封印されたエルムの墓、そこに一緒に埋葬されたキリムの体の一部を、<英雄>は取り戻そうとしているらしい。
 アッシュ、アジュ、ソラと共に友理子は<英雄>のいる王宮へ向かう。誰もが友理子に何かを隠している様子に苛つきながらも、<英雄>を封印し、兄を取り戻すために。…

 これはまた、本当に夏休み公開のアニメ映画になりそうな話ですね。映像とか物凄く目に浮かぶ。
 とは言え冒険のきっかけは辛いし、リセットは効かない的なテーマは重いしするんですが。
 宮部さんのファンタジーは、多分状況説明があまりお上手ではないんですよね。今回も上巻ほとんど設定の説明に費やしてるし、その分何だか間のびした印象になってしまう。伏線も全部拾ってはいないんじゃないかな、叔父さんの別荘に筆記具が無かった理由って書かれてませんでしたよね??
 ソラの正体には気が付きませんでした。主人公と同じように、周りの人は分かっているのに自分だけは何も知らされない状況、ってのは結構ストレスありましたね~。よっぽどラスト先に読んじゃおうかと思った(苦笑;)。
 自分を取り戻してもう一度融合、ってのは『タラン』のシリーズとかフランスのアニメ『時の支配者』にもあった覚えが…。あちらの伝承か何かでそういう型があったような気がする。でも今回、これでカタはつかないんですね。
 最後のこれは、シリーズ化宣言ってことなんでしょうか。友理子は“狼”になってまた<英雄>と対峙するんでしょうか。確かにキリクの残り7つの遺体は見つかってないし、<英雄>の封印はなされてないけど。でも、これはこれで終わってもいい気はするなぁ。